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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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『……八嶋さん、実は自分が日垣1佐を狙ってたりとか!』

 まさか、こんなところで、告白……?

 それにしては険悪な空気だ。告白、というよりは、すでにそれなりの関係にある二人の人間の口論、というほうが近いかもしれない。
「理由を教えてください。私が至らないところは努力します」
「だから、そういうことじゃないんだ。それに今更……」
 壁越しでは、日垣の低い声は切れ切れにしか聞こえない。もう一度顔を出そうとした時、エレベーターの到着を知らせるチャイムが鳴った。慌てて階段側に身を引っ込めると、数人がエレベーターの中から出てくる靴音が聞こえた。その中の一人が日垣に話しかけている声がする。
 少しの間、男性二人のやり取りが聞こえ、やがて、複数の足音は第1部の部屋の中へと消えていった。
「八嶋さん、この件はまた後で」
「待ってください。最後まで聞いて……」
「悪いが、急ぎの話がある。後にしてくれ」
 日垣がため息交じりに応えるが、八嶋は引き下がろうとしない。
「後って、いつならいいんですか? もう時間がないじゃないですか」
「話をしてどうにかなる問題じゃない」
「結局、私はずっと、今のままなんですか……」
 冷静さを欠いた高い声が、急に止まる。どうしたのだろう。美紗が、再び階段出口から顔を半分ほど出すと、八嶋が日垣のほうに半歩ほど歩み寄り、口元を抑えてうつむくのが見えた。ショートボブの黒髪が、完全に彼の制服に触れていた。

 美紗の身体の中を、冷たい何かが、ずるりと流れ落ちていく。

 八嶋香織は、下を向いたまま、何か喋っていた。しかし、手で口を覆っているせいで、何を言っているのかまでは分からない。彼女の声より、美紗自身の心臓の音が大きくて、言葉も何もかき消される。
「分かった。細かい話は――、明日……」