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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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 メイクに気合を入れるのが趣味らしい大須賀から見ると、童顔で化粧っ気もない美紗は十代に見えるらしい。美紗はわずかに顔を曇らせた。初対面に近い人間には、必ず同じようなことを言われる。仕事は覚えれば徐々にスムーズに回るようになるが、童顔で頼りなさそうな見かけはどうにもならない。
「美紗ちゃん、こう見えてもお酒強いんだって。ちなみに、四大出の新卒入省、今年で四年目だよ」
 会話が途切れそうになるところを、吉谷が絶妙にフォローした。大須賀は「そうなんだ、ごめーん」と軽く流すと、指で数えて、
「ん? ……ってことは、今、二五か六? じゃあ、四捨五入するとアラサーの仲間入りだあね?」
 と、妙に嬉しそうな声を出した。
「いいなあ、若く見えて。それに、一日中、日垣1佐を見てられるんでしょお?」
 スーツの中に窮屈そうに収まる大きな胸の前で手を組んだ大須賀は、太いアイラインの入った目をしばたたかせ、羨ましげに美紗を見た。「ライバル」は、予想していたよりずっと友好的なタイプのようだ。少し安心したものの、再び日垣の名前を口にされると、やはり落ち着かない。何と答えようかと戸惑う美紗の代わりに、また吉谷が話に入った。
「そうでもないって。1部長は不在のこと多いし、いても部長室に籠ってるから」
「でもお、同じフロアってだけで、羨ましい。あの人、カッコイイよねえ。そう思わない?」
 大須賀のあまりにストレートな物言いに、美紗はひきつった笑顔だけを返した。いわゆる「社内恋愛」は、もう少し密やかに展開するものだと思っていた。このアグレッシブなライバルは、ただふざけているのか、それとも、敢えて主張して周囲をけん制するつもりなのか。
 どちらにしても、自分にはとても勝ち目はなさそうに思えた。あの人を好きになったかもしれないと気付いてから半年以上、ただその気持ちを抱えたままの自分には……。
 微かに沈んだ表情を浮かべる美紗の横で、大須賀は嬉々として、第1部長の話を吉谷に延々と聞かせた。途中で何度か女子更衣室の扉が開き、数人が出入りしたが、全く気に留める様子もない。ついには、美紗に向かって、
「鈴置さんとお近づきになれたのは、きっと神様の思し召しだわあ。今度、直轄チームに遊びに行っていい?」
 と言って、艶っぽく口角を上げた。どうやら、美紗をダシにして、直轄チームに入りびたり、第1部長を眺めようと企んでいるらしい。