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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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「ガーデンスペースの……ことですよね?」
 征が、呟くように尋ねた。美紗は、ブルーラグーンにしては青が深すぎるカクテルグラスを見つめたまま、顔を上げられないでいた。家族のいる男性を想って心を乱していたなどと、若いバーテンダーにとっては、嫌悪感を覚えるばかりの話だろう。
「大通りを渡ったところの、高いビルの向こう側にあるやつでしょう?」
 美紗がうつむいたまま頷くと、征は一人、静かに語り続けた。
「あそこ、青い世界って感じでホントに綺麗ですよね。LEDを20万個くらい使っているんだそうですよ。僕も時々仕事帰りに見に行ったりするんですけど、あの青い光に包まれたら、もやもや考えていたことがすっかり消える感じで……。なんだか、自分に正直な気持ちになれるから、好きなんです」
「正直な、気持ち……」
 美紗は征の言葉を口の中で繰り返した。家族を持つあの人と、ひと時を共有するだけの関係を、ずっと続けたかった。不道徳だと謗られても、その時の想いを否定することはできない。
 美紗は、ブルーラグーンから目を離し、ゆっくりと、正面に座るバーテンダーのほうに視線を上げた。美紗より若いはずの彼は、藍色の瞳に悲しげな色を浮かべながら、包み込むような笑顔を返してきた。


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