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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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(第六章)ブルーラグーンの戸惑い(6)-森厳な光



 海、のような、一面の青が広がっていた。正確には、青と紺の合間くらいの色。すべての雑念を消し去る、絶対的な一色の世界。

 綺麗……

 それが、高層ビルに隣接する庭園風の広場を覆う青一色のイルミネーションであることに気付いたのは、数秒経ってからだった。周囲の木も、芝生の上さえも、小さな青い灯りで埋め尽くされている。 

 空気すらも青に染まっているかのような、その空間を、どれだけの間、眺めていたのだろう。美紗は大きく息を吐いて、我に返った。

 ずっと胸の中を飛び回り続けていた何かは、いつの間にか、いなくなっていた。

 かわりに、青と紺の間のような色合いの光が、日垣貴仁の制服姿を思い起こさせた。レセプションに出発する間際の日垣に、上着を取ってきてほしいと言われて、初めて彼の制服に触れた。その上着は、かなり大きく感じられた。彼がそれを羽織る仕草に、姿勢の良い濃紺の後ろ姿に、つい息を飲んだ。急に体が動かなくなったような気がして、上着と一緒に持ってきた在京フランス大使館の招待状を渡しそびれた。
 レセプション会場であの人は困らなかっただろうか、と今になって心配になった。もっとも、何事にもそつのない彼のことだ。1等空佐の階級を付けた制服を着て官用車で現地に赴くのだから、招待状がなくとも差し支えないと思っていたのかもしれない。少なくとも、大使館のセキュリティに止められることはないはず……。
 どこまでも間の抜けた自分が悲しくて、美紗はため息をついた。あの時、日垣が事務所を出てまもなく、件の招待状が自分の手元に残ったままだと気付いていた。しかし、彼を追うことも、連絡を入れることもしなかった。とてもそこまで気が回らなかった。濃紺の制服に寄りそう「奥様代理」の女性に気を取られるばかりだったから……。