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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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 私が吉谷さんくらい年を重ねていれば、もっとあの人の傍にいられるのに
 私が吉谷さんくらい経験豊富だったら、もっとあの人に信頼してもらえるのに
 私がもっと大人だったら、あの人を警戒させることはなかったのに
 私が――

 色鮮やかな蝶が、夜の街を華麗に飛び回り、嫉妬の煌めきをまき散らす。
 
 いつもの細道を通り過ぎ、そのまま明るい大通りをぼんやりと進んだ。交差点で、信号に行く手を阻まれた。多くの傘が大通りを横切る。道路の向こう側へと歩く人並みのほとんどは、頭上に覆いかぶさるようにそびえる高層ビルを目指している。その動きに流されるかのように、美紗も体を左に向けた。
 点滅する青信号に急き立てられるように横断歩道を渡り、ふと顔を上げると、白い光が目に入った。細長く伸びるそれは、いよいよ間近に迫る高層ビルとそれに付随するショッピングエリアの敷地を縁どるように、ずっと奥まで続いていた。
 白い柔らかな色が、細かい雨に、滲む。

 美紗は、零れ落ちそうなっていた涙を、指でぬぐった。白く細長い光の筋は、無数の小さな灯りに飾られた遊歩道だった。すぐ脇にある二車線の車道と同じくらいの幅がある。道に沿って植えられた木々は、白い電球をまとい、あるいは、落ち着いた緑色を光の中に振りこぼし、歩く者の心を静寂へといざなうかのようだ。
 いかにも、雰囲気を求める恋人たちで混み合いそうな場所だ。しかし今夜は、冷たい雨が彼らを建物の中に追いやってしまったらしく、白と緑のコントラストの中を歩く人影はまばらだった。
 美紗は、何かに導かれるように、ひとり、その道を進んだ。遊歩道はやがて車道から離れ、木立の中へと入っていく。そこも、眩しくない程度にライトアップされ、都会的な静けさに満ちていた。舗装された道を歩く足音だけが、小さく響く。

 さらに緑の中を行くと、にわかに視界が開けた。