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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅵ

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 未来の航空幕僚長と噂される第1部長の「奥様代理」の任にふさわしいのは、吉谷綾子のような女性だ。彼女を前にして、鈴置美紗は、とても太刀打ちできない。敗北感が満ち潮のように押し寄せ、周囲の光と音を奪う。
 黒塗りの官用車の後部座席に乗る二人は、道中、どんな言葉を交わすのだろう。政財界の関係者も大勢招かれるレセプションで、二人はどんな時を過ごすのだろう。 
 
 胸の中を、美しすぎる大きな蝶が、あたり構わずかき乱していく。

 
「残念だったね」
 背後から忍び寄るような声に、美紗はびくっとして振り向いた。小坂3等海佐が、両手に腰を当てて、ニヤリと笑みを浮かべて立っていた。
「日垣1佐の奥さん役。最初に名前が出たのは鈴置さんだったのに」
「べ、別に、……いいんです!」
 美紗の狼狽ぶりをからかうように、小坂は口を横に広げて白い歯を見せた。
「ただメシ食いそびれちゃったねえ。あ、ただ酒もか」
「レセプションだろ? どうせ立食だ。そんなに食えやしないって」
 いつも勘のいい直轄班長の松永2等陸佐は、しかし、ちらりと美紗と小坂のほうを見やっただけで、再びパソコン上の自分の仕事に戻った。窓際の彼の席からは、美紗の表情がはっきりと見えなかったようだった。「シマ」の一同が遠慮なく笑う中、美紗は真っ赤になって黙っていた。本心を知られるくらいなら、食い意地の張った女と思われているほうがいい。
「立食で全然OKですよ。『タダ飯』っすから。そういう話、うちには来ないんすか?」
 一人暮らしの片桐1等空尉は、文字通り「オイシイ話」が羨ましくて仕方がないようだった。松永が「全くないね」と顔も上げずにあしらう。代わりに、松永のすぐ脇の席に座る佐伯3等海佐が、第1部の大きな部屋の一角を指さした。
「取りあえずタダ飯が食いたいなら、事業企画課の渉外班がいいよ。在京大使館の武官室や在日米軍の連絡官室と付き合いがあるから、レセプション程度の行事なら、班員揃ってご招待にあずかれるんじゃないかな」