小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レイドリフト。ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 フーリヤが、嬉しそうに叫んだ。
『早く電源を! 』
【分かってるって! 】
 ボルケーナトラックが2台、建屋に横付けされた。
 1台はプールのと同じように、長いクレーンをのばす。
 のばす先は、フーリヤのいる屋上だ。
 ガチッ という、金属がぶつかり、固定された音がした。
 もう一台のトラックは、クレーンではなく、大きなコンテナを積んでいた。
 コンテナから伸びるのは、一本のロボットアーム。
 アームがクレーン車に接続されると、フーリヤはその長い足を建屋から引きずりだしていく。
 黒い鋼鉄の鳥は、飛行を取り戻した。
『電源切り替えを確認! ここからはバリア展開に集中します! 』

【ボルケーナ! 来てくれたんですね!
 という前に、お久しぶりです】
 レミは、今日初めて機嫌のいい顔になった。
 話しかけたのは、宙に浮かび、半透明に輝く燃える石。
【久しぶり~】
 ボルケーナのマジックボイスだ。
【そう言えば、あいさつもしてないな。先輩お久しぶりです。
 ところで、あのプールに入れたローターは何ですか? 】
【水を電気分解することでオゾンを作る、固体高分子電解質膜。
 オゾンで水の殺菌&無臭化するのよ】
 説明しながら、マジックボイスの明るさが増していく。
 同時に響く、ヴーンという音。
 マジックボイスの光は、空中で衝突しあい、そのたびに機動を曲げていく。
 直線だった光が、丸みを帯びていく。
 干渉レーザーによる立体映像。
 ランナフォン、というより久 編美=オウルロードと同じ能力だ。
 現れたのは、メガネをかけた大人の女性だ。
 眼鏡は縁なし。シャープな顎と鼻筋の通った顔立ち。
 ポ二ーテールにした黒く長い髪。
 着ているのは飾り気のない赤いつなぎだが、胸と腰は強引なまでに膨らんでいる。
 ボルケーナ人間態だ。

【あれがボルケーナ? 報告と形状が違う? 】
 建屋の中央から声がした。
 そこは玄関から扉か壁、明り取りの窓1枚隔てたところ。
 重厚で複雑な送水ポンプが整然と並ぶ場所。
 そこでポンプを盾に人々が固まっていた。
 彼らに対してボルケーナは、扉を超え、ビジネスライクな笑顔を見せて。
【仕事ですから】

 ポンプの影から、1人立ち上がる者がいた。
【ボルケーナ様! ……ごきげんよう】
 立ち上がったのは、バルケイダニウム・クラッシャーを突きつけてきたパイロットだった。
【是非ともお教えいただきたい! 】
 初老の男だ。50年前の宇宙戦争開戦のころは、幼い子供だったに違いない。
【我々は、いったい、どこを探せばよかったのでしょう?
 どう探せば、宇宙の優しさを見つけだせたのでしょうか?
 それに気づけなかった俺たちの歴史は、どうなるんですかぁ!? 】
 膝まづくとか、手を合わせると言った、神を崇める仕草はチェ連にはない。
 パイロットは鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、必死にへたり込むのを耐えて、背筋を伸ばしていた。
 未だ隠れる人々から声が漏れた。
【隊長……】 【隊長……】
 降伏を選んだ市民たちとは、喧嘩などになってない。
 それを見ると、決して浅い仲ではなかったらしい。

【あの、先輩。あなたがいる間は、どんなに相手を殺そうとしても、絶対殺せない。そうでしょ? 】
 ドディが、ボルケーナに言った。
 明らかにあわてた様子で。
【うん。そうだよね。ハッケ】
 ボルケーナは、落ち着いた様子でたずねた。
『はい、中止になった帰還パーティー以降、確認された死亡者数は0人です』
 ドディは安心して、笑顔で変身を解いた。
【だったら、俺たちが敵対する理由は無い、そうでしょ? 】
 元の顎髭のある顔に戻り、制服を着た体になった。
【ええ、そうだね。
 せっかくのご指名を受けたから、彼の質問に答えさせて】
 ボルケーナがそう言って、示したのは立ちすくむパイロットだった。
【事実と違う事を言ったら、教えてね】
 生徒会は、力強い頷きで答えた。

【あの、パイロットさん。彼らがチェ連に召喚されたばかりのころを思いだしてください。
 彼らは、あなた達の協力が必要になりましたね】
 パイロットは、恐る恐ると言った雰囲気で【はい】とだけ答え、全身全霊を振り絞った様子でうなづいた。
 ボルケーナは話を再開した。
 攻めている様子はない。
 ただ、事実を確認している。
【ある程度の生活物資はノーチアサンにも備蓄されています。それらを使い尽くしても、どんなものでも作りだせる創世プリンターがあります。
 ご存知ですよね? 】
【……はい。他の宇宙船から取りだした物を、見たことがあります。
 我々の技術が及ばず、利用できませんでしたが……】
 隊長が無念そうに言った、創世プリンター。
 ノーチアサンの艦内工場にある、構造さえ明らかならば、どんな物質でも作り出すことができる機械だ。
 内臓や手足などの人工臓器さえ作りだせる!
 まず準備として、創世させる物の材料が必要になる。
 例えば人工内臓を作るなら肉を。機械なら鉄などだ。
 プリンターを動かすにも電力がいる。
 これもノーチアサンやフーリヤたち機械系メンバーのエネルギー源、核融合炉が使える。
 ボルケーナは【そうでしたか……】と関心を示して、話を進める。
【生徒会でも、すぐに限界を悟りました。
 タンパク質には2種類ある、というのはご存知ですか? 】
【たんぱく質を構成するのはアミノ酸。アミノ酸には、分子が鏡に映したように左右逆転した並びで配列した物がある、という話でしょうか。
 生徒会からのお話にありましたが、詳しくは分かりません】
【無理もありません。
 ふつう、アミノ酸の鏡像体を持つ生物の所には、どんな侵略者も行きたがらない物ですからね】

 気づけば、ボルケーナと隊長の声はよく響いていた。 
 建屋の奥からの叫びや泣き声は消え、代わりにいくつもの視線がある。
 あの、ひどい雨のにおいも消えていた。
 消毒は効果を発揮した。
 そとは雨の切れ目だ。
 月と宇宙船の反射が、真っ白な光を差し込ませる。

 パイロットは、ただ直立している。
 しかし、もう涙は流さない。
 目はしっかり、話し続けるボルケーナを見据えていた。
【タンパク質が、地球やスイッチアの生物とは違う生徒がいます。
 創世プリンターは、彼らへの食糧を作るために使われることになりました】
 そうだ。
 地球人のような有機生命体を構成するのはタンパク質。そのタンパク質を構成するのはアミノ酸。
 このアミノ酸は普通に合成すると、原子の組み合わさり方がまるで鏡に映ったかのように決まる、右型と左型の2種類ができる。
 どちらでもタンパク質はつくり出されるが、地球とスイッチアでは左型アミノ酸をもとにした生命しかいない。
 もし左型アミノ酸生物が右側アミノ酸生物を食べれば、毒を食べたことになり、場合によっては死に至る。
 こういう事は、魔術学園では幼稚園のころから教えられる。

【どうしても、チェ連の方々の協力が必要になったのです。
 あなた達の信用を得るために、彼らは決断しました。
 ペースト星人テロリストのような、宇宙に陣取る敵をターゲットに、兵器を鹵獲してあなた達に渡すことです。