レイドリフト。ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い
フーリヤが、嬉しそうに叫んだ。
『早く電源を! 』
【分かってるって! 】
ボルケーナトラックが2台、建屋に横付けされた。
1台はプールのと同じように、長いクレーンをのばす。
のばす先は、フーリヤのいる屋上だ。
ガチッ という、金属がぶつかり、固定された音がした。
もう一台のトラックは、クレーンではなく、大きなコンテナを積んでいた。
コンテナから伸びるのは、一本のロボットアーム。
アームがクレーン車に接続されると、フーリヤはその長い足を建屋から引きずりだしていく。
黒い鋼鉄の鳥は、飛行を取り戻した。
『電源切り替えを確認! ここからはバリア展開に集中します! 』
【ボルケーナ! 来てくれたんですね!
という前に、お久しぶりです】
レミは、今日初めて機嫌のいい顔になった。
話しかけたのは、宙に浮かび、半透明に輝く燃える石。
【久しぶり~】
ボルケーナのマジックボイスだ。
【そう言えば、あいさつもしてないな。先輩お久しぶりです。
ところで、あのプールに入れたローターは何ですか? 】
【水を電気分解することでオゾンを作る、固体高分子電解質膜。
オゾンで水の殺菌&無臭化するのよ】
説明しながら、マジックボイスの明るさが増していく。
同時に響く、ヴーンという音。
マジックボイスの光は、空中で衝突しあい、そのたびに機動を曲げていく。
直線だった光が、丸みを帯びていく。
干渉レーザーによる立体映像。
ランナフォン、というより久 編美=オウルロードと同じ能力だ。
現れたのは、メガネをかけた大人の女性だ。
眼鏡は縁なし。シャープな顎と鼻筋の通った顔立ち。
ポ二ーテールにした黒く長い髪。
着ているのは飾り気のない赤いつなぎだが、胸と腰は強引なまでに膨らんでいる。
ボルケーナ人間態だ。
【あれがボルケーナ? 報告と形状が違う? 】
建屋の中央から声がした。
そこは玄関から扉か壁、明り取りの窓1枚隔てたところ。
重厚で複雑な送水ポンプが整然と並ぶ場所。
そこでポンプを盾に人々が固まっていた。
彼らに対してボルケーナは、扉を超え、ビジネスライクな笑顔を見せて。
【仕事ですから】
ポンプの影から、1人立ち上がる者がいた。
【ボルケーナ様! ……ごきげんよう】
立ち上がったのは、バルケイダニウム・クラッシャーを突きつけてきたパイロットだった。
【是非ともお教えいただきたい! 】
初老の男だ。50年前の宇宙戦争開戦のころは、幼い子供だったに違いない。
【我々は、いったい、どこを探せばよかったのでしょう?
どう探せば、宇宙の優しさを見つけだせたのでしょうか?
それに気づけなかった俺たちの歴史は、どうなるんですかぁ!? 】
膝まづくとか、手を合わせると言った、神を崇める仕草はチェ連にはない。
パイロットは鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、必死にへたり込むのを耐えて、背筋を伸ばしていた。
未だ隠れる人々から声が漏れた。
【隊長……】 【隊長……】
降伏を選んだ市民たちとは、喧嘩などになってない。
それを見ると、決して浅い仲ではなかったらしい。
【あの、先輩。あなたがいる間は、どんなに相手を殺そうとしても、絶対殺せない。そうでしょ? 】
ドディが、ボルケーナに言った。
明らかにあわてた様子で。
【うん。そうだよね。ハッケ】
ボルケーナは、落ち着いた様子でたずねた。
『はい、中止になった帰還パーティー以降、確認された死亡者数は0人です』
ドディは安心して、笑顔で変身を解いた。
【だったら、俺たちが敵対する理由は無い、そうでしょ? 】
元の顎髭のある顔に戻り、制服を着た体になった。
【ええ、そうだね。
せっかくのご指名を受けたから、彼の質問に答えさせて】
ボルケーナがそう言って、示したのは立ちすくむパイロットだった。
【事実と違う事を言ったら、教えてね】
生徒会は、力強い頷きで答えた。
【あの、パイロットさん。彼らがチェ連に召喚されたばかりのころを思いだしてください。
彼らは、あなた達の協力が必要になりましたね】
パイロットは、恐る恐ると言った雰囲気で【はい】とだけ答え、全身全霊を振り絞った様子でうなづいた。
ボルケーナは話を再開した。
攻めている様子はない。
ただ、事実を確認している。
【ある程度の生活物資はノーチアサンにも備蓄されています。それらを使い尽くしても、どんなものでも作りだせる創世プリンターがあります。
ご存知ですよね? 】
【……はい。他の宇宙船から取りだした物を、見たことがあります。
我々の技術が及ばず、利用できませんでしたが……】
隊長が無念そうに言った、創世プリンター。
ノーチアサンの艦内工場にある、構造さえ明らかならば、どんな物質でも作り出すことができる機械だ。
内臓や手足などの人工臓器さえ作りだせる!
まず準備として、創世させる物の材料が必要になる。
例えば人工内臓を作るなら肉を。機械なら鉄などだ。
プリンターを動かすにも電力がいる。
これもノーチアサンやフーリヤたち機械系メンバーのエネルギー源、核融合炉が使える。
ボルケーナは【そうでしたか……】と関心を示して、話を進める。
【生徒会でも、すぐに限界を悟りました。
タンパク質には2種類ある、というのはご存知ですか? 】
【たんぱく質を構成するのはアミノ酸。アミノ酸には、分子が鏡に映したように左右逆転した並びで配列した物がある、という話でしょうか。
生徒会からのお話にありましたが、詳しくは分かりません】
【無理もありません。
ふつう、アミノ酸の鏡像体を持つ生物の所には、どんな侵略者も行きたがらない物ですからね】
気づけば、ボルケーナと隊長の声はよく響いていた。
建屋の奥からの叫びや泣き声は消え、代わりにいくつもの視線がある。
あの、ひどい雨のにおいも消えていた。
消毒は効果を発揮した。
そとは雨の切れ目だ。
月と宇宙船の反射が、真っ白な光を差し込ませる。
パイロットは、ただ直立している。
しかし、もう涙は流さない。
目はしっかり、話し続けるボルケーナを見据えていた。
【タンパク質が、地球やスイッチアの生物とは違う生徒がいます。
創世プリンターは、彼らへの食糧を作るために使われることになりました】
そうだ。
地球人のような有機生命体を構成するのはタンパク質。そのタンパク質を構成するのはアミノ酸。
このアミノ酸は普通に合成すると、原子の組み合わさり方がまるで鏡に映ったかのように決まる、右型と左型の2種類ができる。
どちらでもタンパク質はつくり出されるが、地球とスイッチアでは左型アミノ酸をもとにした生命しかいない。
もし左型アミノ酸生物が右側アミノ酸生物を食べれば、毒を食べたことになり、場合によっては死に至る。
こういう事は、魔術学園では幼稚園のころから教えられる。
【どうしても、チェ連の方々の協力が必要になったのです。
あなた達の信用を得るために、彼らは決断しました。
ペースト星人テロリストのような、宇宙に陣取る敵をターゲットに、兵器を鹵獲してあなた達に渡すことです。
作品名:レイドリフト。ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い 作家名:リューガ