レイドリフト。ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い
それに伴うドン ドンと聞こえるのは、超音速で飛ぶ物体が伴う衝撃波。
自衛隊の砲撃だ。
川の向こうから来るものよりはるかに重く、早く、数も多い。
だが、あの青いバリアに阻まれた。
車両に搭載された物を、何重にも張ったのだろう。
ダメージがあったかどうかは分からない。
駐車場に地中竜が、建屋内部に気付いた。
大勢の人間を見て、その恐ろしげな牙をむく。
ささくれ立った翼も、かえってギラつく巨大なのこぎりのよう。
【キャー!! 】
人々が建屋のさらに奥へ駆けだしてゆく。
だが、どこへ?
狭い建屋では、どんなに頑張っても壁1枚しか違いがない。
パイロットのトランシーバーが怒鳴り始めた。
『こちらフセン市警察特殊任務隊! マフラー隊聴こえるか!? 』
【こちらマフラー隊、どうぞ】
『浄水場はもう包囲できない!
敵からの砲撃を受けている!
それと、辺りは地中竜だらけだ!
海中樹も向かってきている! 』
この大規模な戦闘に反応し、海から上がって来たのだ。
『天上人も向かっているという報告もある!
何とかしてくれ! 』
【もう何もできない……。ごめんなさい!! 】
最後は、本当に怒鳴り合いになっていった。
土壁の土砂が、突然吹き上がった。
倒れ込んでいたエイリアン・マフラーが、竜の顎を殴り上げたのだ。
竜は口の中でため込まれた火を吐きせない。暴発させてしまい、苦悶に身をよじる。
その隙にエイリアン・マフラーが掴み掛った。
エイリアン・マフラーの左足を失っている。マフラーの名の由来であるローターもない。
双方ともに不利な状態だが、土砂を巻き上げる殴り合いが始まった。
ドディ達にも入り込めないまま、目まぐるしく立ち位置を奪い合い、走り去る。
外では、さらに激しさがます。
バタバタと特徴的なヘリコプターの音が近づいてきた。
【PP社のヘリコプター隊だ! 】
ドディは味方だ! と叫ぼうとしてやめた。
なぜなら、彼らが狙うのは……。
ヘリはさらに近づき、普通の人間でも見えるようになった。
やってきたのは6機。
先陣を切るのは2機のコマンチ偵察ヘリ。
細長く、レーダー波を受け流す6角形の機体は鉛筆を思わせる。
搭載された各種センサーもそうだが、PP社では探知系異能力者を必ずのせているので、敵を確実に見つけだす。
機体下のドアが開き、収納されたミサイルが現れた。
50メートルほど離れて続く2機はアパッチ戦闘ヘリ。コマンチと同じアメリカ製だ。
細長い機体に短い羽をつけ、多数のミサイルやロケット砲を吊り下げている。
殿はアパッチより少し太めのハインド戦闘歩兵ヘリ。
ロシア製で、2人の操縦者のほかに8人の完全武装の歩兵をのせられる。
【エピコスさんなら、真脇さんのお兄さんの会社が、なぜ別々の国の兵器を使うのか、不思議に思うでしょうね】
え? と、ドディは意外に思った。
【整備や運用のしにくさがわかるでしょう】
レミの口から、その幻想的な姿には似つかわしくない、現代的な戦争の話題が飛びだす。
【真脇さんが言うには、お兄さんの会社――ポルタ・プロークルサートル社は、20年前の異能大量発生現象と、それに伴う社会不安の受けて作られた警備会社です。
確か、創立から10年もたっていなかったのではないかしら? 】
だが、思い直した。
レミにとっては、真脇 達美もシエロ・エピコスも、大切な存在なのだ。
【その頃は似たような警備会社が幾つも生まれていていました。
しかし、戦車やヘリような大型兵器はすぐには増やせません。
早く戦力をまとめるために、各国の工場でできた順や、中古の物を集めたそうです】
いやなガールズトークだな。とドディは思った。
6機のヘリは周囲を旋回しながら、機関砲やミサイルを四方八方に打ち込む。
地域防衛隊の多重バリアが、それらをすべて防いでいるのが見えた。
だがバリアを張っている間は、地域防衛隊も浄水場へ攻撃はできないらしい。
攻撃できないのは、飛行するすべを失った地中竜も同じだ。
口からの火炎弾は遅い上に目立つ。
鈍重という評価のハインドさえ、余裕でよけた。
【海中樹は……あれか】
ドディが見つけた。
川を超えたはるか向こう。
視界がかすむほどの激しい雨の中、燃え尽きる街の炎をバックに、巨大な影が歩いている。
炎とは違う、明るい白い光が輝いていた。
何となくだが、ゆるぎなさを感じた。
当然かもしれない。
あの輝きはスイッチアの太陽の物。
惑星の反対がわにある島、海中樹の本拠地は今、昼だ。
明るくないわけがない。
その光を運ぶのは、海中樹に伝わる謎の宝石。
あてられたエネルギーを違う場所のある宝石へ伝える性質を持つ。
テレポートさせた日光を受け取るのは、昆布のように垂れ下がる長い葉。
その葉が全身から垂れ下がるのだが、土台になる体型は様々だ。
いびつな4足歩行。2本足に腕が5本生えたような者もいる。
【奴ら、チェ連の戦闘に反応して、上陸したんだよな】
ドディの話にレミが。
【ええ。最初は異星人居住区のまわりを。そこから浄水場へ転進した部隊を見つけ、追って来たのでしょう】
宝石の光が増してゆく。
テレポートさせる太陽光を増やすことで放たれる、高熱の光線だ!
直撃すれば、人間など焼き尽くされてしまう!
だが、その光が何かを焼くことはなかった。
突如雨が強まり、熱せられた雨は一瞬にして水蒸気に変わった。
その蒸気が光線を乱反射させ、無力化する。
上空に、巨大な龍がいる。
あたりの風雨に関係なく、その力強い4本足と翼ははっきり、青く輝いている。
竜崎 咢牙だ。彼が起こした雷が、海中樹に落とされる。
【あちらは心配なさそうですね】
レミの声には疲れが滲んでいた。
浄水場の敷地に、底力を感じさせる、深いエンジン音が聞こえた。
PP社の地上部隊がやって来たからだ。
前方にブルドーザーのようなブレードをした10式戦車が、瓦礫などを払いのけた。
続くのは人型ロボットのドラゴンドレス・マーク6やマーク7。
マーク7の迷彩柄には、見覚えがあった。
雪山で迎えに来た、真脇 応隆の機体だ!
今は巨大な銃を抱え、川の向こうを警戒している。
駐車場の小さな山は、伏せれば格好の遮蔽物だ。
それに続いて、何台ものトラックが入ってきていた。その色は、赤。
そしてフロントガラスがある部分には、大きな二つの目が並んでいた。
マンガのキャラクター化された車のようだ。
【ボルケーナ分身態? 何をするつもりだ? 】
守護女神の列は、浄水場のプール横に次々と並んでいく。
そして並んだ順から、その荷台に折りたたまれたクレーンをのばし始めた。
その先端がさらに展開する。ヘリコプターのローターのような形になった。
とても長いクレーンだ。
柵や高低差に阻まれても、問題なくプールまで届く。
そして、プールにローターを沈めていく。
水がゆっくりと波打ち続ける。
水中でローターが回っているからだ。
『待ってました! 修理はすでに終わっています! 』
作品名:レイドリフト。ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い 作家名:リューガ