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レイドリフト。ドラゴンメイド 第23話 嵐の誓い

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【そいつを見捨てないでくれぇ! 】
 いきなり建屋の方から声があがった。
 あの、避難民を連れてきた男。白旗をあげていた地域防衛隊員だ。
 今は玄関まえの四輪駆動車の影から、頭だけをだしている。
 そこから先にはフーリヤのバリアがある。
 透明なのに鉄板のような硬さを持つ壁が。
【そいつは、僕の友達なんだ! 】
 彼は、川辺のエイリアン・マフラーを指さしていた。

 夜空を背に、川の向こうからは雨あられの砲弾。
 せいぜい100メートルの飛距離。建屋を、駐車場を、擱座したロボットを豪快にえぐっていく。
 そんな中、ドディは走りだした。建屋からの声にはじかれたように。
 砕け散るアスファルトが、鋭いかけらとなって襲い掛かる。
 それでもエイリアン・マフラーの下で酒をあおる、あのパイロットの元へ駆けこんだ。
 お姫様抱っこの要領で持ち上げ、建屋に向かって走りだす。

 ドディには勝算はあった。
 レミュールはその弓を横一文字に構えている。
 弓から放たれる青いオーロラのような光が、砲弾を防いでいる。
 彼女が何をしようとしているかはわかる。
 ドディが横を駆け抜けると、弓が持ち上がった。
 それにつられて、駐車場のアスファルトが割れた。
 割れ目が弓と平行に伸びる。駐車場を真二つに断ち切った。
 割れ目の下から現れたのは、分厚い土の壁。
 高々とそびえたち、無数の爆音をその向こうへ追いやった。
 それでも砲撃はくる。
 一度上空へ砲弾を上げ、落下する迫撃砲だ。
 これにはフーリヤが右翼とバリアをのばして防いでくれた。
 
 その時、エイリアン・マフラーのパイロットが現れた。
 建屋の右から銃を構え、道をふさぐ。
 足をがくがくふるわせながら。
 その銃は、木と鉄でできたボルボロス自動小銃ではなかった。
 所々から青い光が漏れている。
 明らかに、宇宙の技術で作られた物。
 具体的にはバルケイダ星人のバルケイダニウム・クラッシャー。
 バルケイダ星人が自らの能力、バルケイダニウムを応用して作った、多目的銃だ。
 鉄をも溶かす2000度のプラズマを発射できる。
 バーナーの様に噴射し続け、銃剣にもできる。
 プラズマを閉じ込めたバルケイダニウムの鞭は、その名のとおり高温の打撃を何度も叩きつける。
 どう攻撃が来るか分からない、厄介な武器だ。

 だがドディはその武器を見た時、その威力では無く、他の理由で足を止めた。
 後にいたレミの足音も止まる。そして息をのむ音。
 きっと、彼女も同じことを考えている。
 そう考えたドディの心に広がるのは、後悔。
【あのバルケイダニウム・クラッシャー。新しそうだ。もしかして、俺たちが渡した物か? 】
 後悔。だがしかし、それを生みだした過去が、一縷の望みとなるかも知れない。
 だって、まだ撃ってこないじゃないか
 そう信じたくて。
【君も来い! 】
 ドディは、道を阻むパイロットを誘った。
 同僚のパイロットはドディとレミが守っている。
 それを見れば、したがうはずだ。そう思えた。

【来いってどこだ! 地球か!?】
 その声と共に、銃は下がらない。
 それでもドディはなだめた。
【おいおい。俺たち生徒会とあんた達は、2か月間も頑張って――】
 きたんだぜ。と言おうとした。
 だが、青い光に照らされたパイロットの顔は、不気味に笑っていた。
【それっぽっちの時間で――】
 引き金がひかれ、バルケイダニウム・クラッシャーの銃口にプラズマエネルギーが蓄えられる。
【武器が必要なくなると思ったか!! 】
 一秒後には、あの恐ろしい力が放たれてしまう!

『そんなとろい動きで効くか! 』
 ふたつの銃口は、突如さえぎられた。
 叫びとともに振り下ろされたのは、黒くらせん状に固められた、太く長い物。
 フーリヤの触手だ。
 それが、ハンマーのように敵のいたところに振り下ろされた。
 アスファルトにひびを入れて食い込んだその姿は、大蛇が獲物に巻きついて絞殺そうとしている姿にも見える。
【ぎゃあ!! 】
 建屋の玄関から、悲劇を確信した叫びがこだました。
【つ、つぶされた!! 】
 玄関から、悲鳴が幾重にも重なる。
 思わず、ドディとレミの手が伸びた。
 だが、救う手だても、かける言葉も見つからないまま呆然となった。
 
『つ、つぶしてないよ! 』
 困惑するフーリヤの声。
 同時に、触手が回り始めた。
 まるで、玩具のコマを回すため巻きつけられた紐のような動きで。
 触手が離れた。
 その中から現れたのは、回転を続ける防衛隊員。
 完全に目を回し、その場に倒れこむ。
 銃は、はるか遠くまで放り投げられた。

【うわあ! ありがとうございます! ありがとうございます! 】
 玄関のバリアが解除された。
 それに気づいた人々が、次々に駆けだして、2人の地域防衛隊隊員を受け取った。
【でも、どうして助けてくれたの? 】
 1人の少年の目が、それにつられて幾人かの目が、ドディとレミを見て、フーリヤを見上げる。
『助かった。と判断するのは、助けられた人だけだからだよ』
 フーリヤが興奮しながらも、静かな声で答えた。
『それに、ピンチを敵と考え殲滅するよりも、選択肢を与える方になりたい。そういう人から教えを受けた』

 その時、屋上から人影が現れた。
 ハッケだ。
『もうすぐ自衛隊の砲撃が始まります! 中に入りましょう! 』
 フーリヤの触手が、外へ出た人たちを抱えるように伸びた。
 その中で人々は玄関へ駆けこむ。
 ドディとレミもそれを追った。
【壁が崩れる! 】
 誰かが言う。
 レミの防壁が、青や緑、紫などの様々な閃光によって貫かれていた。
 明らかにチェ連製の兵器ではない。
 貫かれた穴は、後続の砲弾が爆発し、さらに広げられる。
【本当に持ちません! 】
 レミが言いきった通り、音を立てて崩れた。
 その土砂は駐車場と、そこに倒れ込んだエイリアン・マフラーを埋め、山積みとなってしまった。
 屋上から、空気をかき回す音が降りてくる。背中のファンを回すハッケが。
 全員建屋に駆けこむと、再びバリアが張られた。

『状況の変化はくまなく報告しています。
 まもなく応援が到着します。安心してください。
 みなさんを安全な場所までお送りします』
 ハッケの請け負うのを聞いて、ドディは外を見てみた。
 変身したことで五感が鋭くなったドディが真っ先に気付いた。
 汚い雨の中、空を飛ぶ者がいる。数は十数。
【応援って、あれか? 】
 ハッケがやってきて、一緒にそれを見上げた。
『いいえ。あれは、ミス竜崎が撃ち落とした地中竜です』

 初めに悲鳴が聞こえた。落下する竜たちが、甲高く吠える声だ。
 近づくにつれ、ダメージの様子が見えてきた。
 翼の生態ジェットエンジンが、吹き飛んでいた。
 ささくれ立ったように鋼鉄の器官がねじ曲がり、羽毛をあらかた失った者もいる。
 それを見ることができたのは、一瞬だった。
 彼らはなすすべもなく、浄水場と川の向こう、およそ300メートルにわたって散乱した。
 その内の一体が、駐車場に滑り込んだ。

 同時に、流星群のようなものが降り注ぎ始めた。