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からっ風と、繭の郷の子守唄 131話から135話

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 「おう。やっと出てきたな。
 慌てたと見えて、全身が蜘蛛の巣だらけで登場だ。
 美和子が助手席から出て、ここの様子を眺めたいそうだ。
 だが、一人で立ち上がるのは大変だ。康平。手を貸してやれ、未来の花嫁に」


 助手席にもたれかかった五六が、車の屋根を叩きながら、にんまりと笑う。
はにかんだ美和子が、もじもじしたまま母の車の助手席に座っている。


 「男たちの夢の現場というやつを、しっかり、自分の目で見たいそうだ。
 身重の体だ。無理はよくねぇ。
 助手席から出るのに、手を貸してやれ。
 桑の木は伸び放題で野生化をしているし、草も伸び放題で、荒れ放題だ。
 歩けば蜘蛛の巣だらけ。むかしはいい桑畑だったというが、
 いまは見る影もない。

 でも美和子。半年もしたら、ここは別世界になる。
 おそらく、たくさんの桑の苗がここに植えられるているはずだ。
 今のところは荒地の藪だ。だがこの現実の姿を、よく見ておいてくれ。
 男の夢は、こんなくだらない荒地から始まる。
 そのことを、まもなく生まれてくる赤ん坊に見せてやってくれ。
 美和子にまた、糸を紡いでもらいたいそうだ。康平のやつ。
 そのために、俺が桑を育てるって、男らしく宣言した、康平のやつ。
 10年以上もお前さんを待たせたんだ。
 ありがたく受け取れ。康平と俺たちからの、お前さんへのプレゼントだ」」

 「もういいわ、五六さん。照れちゃうし恥ずかしいもの、顔から火が出そう」

 「バカ野郎。いまさら遠慮することはねぇ。
 映画に誘っておきながら、勝手にすっぽかしちまったあいつが、悪いんだ。
 あれから10年だ。いや高校卒業の前だから足かけ、13年目になるはずだ。
 康平のやつも、お前さんだけを思って13年間、生きてきた。
 ほら、早く来いよ、康平。助手席から美和子を出してやれ」


 康平が助手席のドアを開ける。右手を美和子に向かって差し出す。
『ありがとう』と応えて、美和子がゆっくり助手席から降りてくる。
『康平。美和子を冷やすんじゃないよ。ほら』
羽織っていたショールを、千佳子が康平へ手渡す。

 「2人でラブシーンをやってもいいけれど、私や五六や徳爺さんが
 居るうちは、むしゃぶりついたりするんじゃないよ。
 見ていてはしたないからね、あっはっは』


 笑い声を残して、母の車がスルスルと後退していく。
そのあとを追うように、五六と徳次郎老人も立ち去っていく。
誰も振り返らず、荒れ地に2人を残したまま、関係者たちが消えていく。