からっ風と、繭の郷の子守唄 131話から135話
からっ風と、繭の郷の子守唄(134)
「そうは言っても、現実は厳しいのよと寂しく笑う身重の美和子」
「みなさんに、いつの間にか見捨てられてしまいました。
気が付けば、あたしたち2人だけです」
「気を利かせたつもりだろう。俺たちに」
桑園を見つめる美和子の肩へ、康平が、母から渡されたショール掛ける。
「あら。これは千尋が紡いだ糸ですね。
いつも丁寧に、丹念に糸を引いている千尋の手の暖かさが伝わってきます。
懐かしい手触りですねぇ」
美和子が両目を細めて、首の周りへショールの絹地をかき寄せる。
「いいわね、男たちは。無邪気に次の夢を見つけて。
すぐに、はしゃぎ始めるんだもの。
女にそうはいかないわ。
10月10日を育て上げ、出産してから、長い育児がはじまる。
男たちが表で夢を追いかけて飛び回っている間、おんなは家の中で
子供を育てるの。
お腹が大きくなっていくたび、私の中でも、そういう覚悟と
気概が成長していく。
わたし。やっぱり今回は、実家へ帰って産もうと決めました」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 131話から135話 作家名:落合順平