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からっ風と、繭の郷の子守唄 131話から135話

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 美和子の目が、真正面から康平を見つめる。
北の峰から湧き出してきた鉛色の雲が、またたくまに頭上を覆いはじめる。
細かい雪の断片が、冷たい空気の中を舞いはじめる。
雪の断片、風花だ。
上着を脱いだ康平が、美和子の肩へ羽織らせる。
風花は、周囲は晴天なのに、雪が風の中を舞い落ちてくる現象のこと。
山に降り積もった雪が、風によって吹き飛ばされ、小雪となってちらつく。
積もることはないが、一面が真っ白にかわることは、よく有る。
北風の中で、前髪を手で押さえた美和子が、ふと康平に微笑みをみせる。

 「万難を排したいと考えています。
 そうでなくてもあたしは、とかくの噂がつきまとう世界を生きてきました。
 田舎はまだまだ、閉鎖的な考えがたくさん残っている世界です。
 しきたりや、建前を重んじる傾向が強いところです。
 みなさんの厚意に甘え、簡単にあなたと暮らすわけにはいきません。
 実家の兄や、お嫁さんの立場もあります。
 あなたのお母さんと、あなたの立場もあります。
 みんなが納得できるその日まで、何年でもわたしは待ち続けます。
 その覚悟なら、とうに出来上がっています。
 お願いだから康平。わたしに優しい言葉はかけないで。
 あなたに優しくされてしまったら、せっかくのあたしの決心がまた、
 足元から、崩れていってしまいそう・・・」


 峰からの激しい吹き降ろしの風が、ふたりを横殴りしていく。
山の天気は、短い時間で変りはじめる。
白く染めるどころか、数センチは積もりそうな雪になってきた。
舞い降りてきた風花が、ふたたび強風にあおられて、天空高く
舞い上がっていく。
風上へ回った康平が、上着でしっかり美和子の両肩を覆う。
足元から舞い上がっていく風花が、2人の姿をつつんで隠す。

 (まるでわたしたちの未来を、暗示するような、とつぜんの嵐です)
 
 でも康平といっしょなら、なんだか乗り越えていけそうな気がするから
不思議です。ねェ康平と、美和子が風をさえぎってくれている康平の顔を、
うれしそうに、きずれないよう、そっと見上げる。