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レイドリフト・ドラゴンメイド 第22話 見損なったのか?

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 ドディは中に警告したが、相手が理解できているかどうかは分からなかった。

【ヒィィ!! 来るなら来い! 】
 小さな隙間から中の声が聞こえる。
 まだ若い男の声だった。
 ハッチは操縦席へのドアだ。

【やいパイロット! 俺たちの世界では、以前にもこれと同じようなロボットと戦ってるんだ!
 手の内なんてわかってるんだよ! 】
【それも、より進化したタイプとです】
 となりに、レミが来ていた。
【武器も強力で、人工知能を搭載した無人機だったはずです。
 あなた方にもお知らせしたはずです】
 そう、異文化や情報の公開は、何も真脇 達美のリサイタルだけじゃない。

 ドディはドアの隙間に指をかけ、足をロボットの胴体につけ、全身でドアをこじ開ける。
 金属の棒、ドアのロックが折れる音が連続して響き、隙間が顔の通る大きさまで開いた。
 その時、隙間から拳銃を持った手が伸びてきて、ドディの方へ向けた。
 バシッ!
 ドディの角が、銃を叩き落とす。
 次の瞬間、レミが一本の矢を隙間に投げ込んだ。
 弓で打ったわけではない。
 ただ、手で投げ込んだ。
 ただしその矢じりは、赤く光っていた。
 投げ込まれた操縦席で、赤い光は強烈な明るさに変わる。
 同時に衝撃と爆音、熱が。
 中で動く気配がなくなったのを見計らい、ドディがドアを投げ飛ばした。
 中を覗き込むと、たしかにパイロットがいた。
 ドディには昔のジェット戦闘機パイロットに似ているように見えた。
 正解だ。
 地球では1950年代に同じような物が使われていた。
 下半身には、遠心力で下がる血液を空気圧で送りかえす、耐Gスーツ。
 膝には地図などを入れ、見ることができる透明なナイロンのポケット。
 丈の長いフライトジャケット。
 グレーのスーツやジャケットの上には、黄色い救命胴衣。
 白いヘルメットに、酸素を吸入するマスク。
 そして物々しいことに、手にはボルボロス自動小銃がしっかりと抱きかかえられている。
 だがその様子は、意識もうろうといった感じで。

 ドディは操縦席に入り込み、機体からマスクに酸素を送るホースを引きちぎった。
 引きずりだしてから、マスクとヘルメットを外す。
 声の感じどうり、頑健な体つきの長身の男だ。
 髪は黒。
 ここ、フセン市の住人によく見られる、日本人に似た顔つき。
 そんな彼が、レミの音と光の魔法で意識を揺さぶられたのだ。

 臭い雨が、力のない若者に打ち付ける。
 二人で小銃をうばい川に捨て、パイロットはすぐに機体の下へ押しやった。
 パイロットはようやく意識を取り戻したのか、顔を動かした。
【行け! 】
 ドディはそう言ったが、パイロットはへたり込んだまま動かない。
 呆然としているのか、抵抗する手段を探しているのか。
【さっさと行っちまえ! 】
 ドディは再び叫ぶと、機体を支える柱、ロボットの右腕を蹴飛ばした。
 蹄が金属の装甲をねじ曲げ、機体全体がぐらりと揺れた。
【行くってどこだよ……! 惑星首都か!? 】
 最初は力がなかったパイロットの声が、次第に勢いを増していく。
 惑星首都とは、チェ連の首都の事だ。
 惑星国家であるチェ連では、他と区別する必要がないからか、地名はそっけないのが多い。
 惑星首都は、ヤン・フス大陸の南海岸にある。
 とても風光明媚な南国の海洋都市。だったらしい。
 生徒会が知るのは、日照不足の影響で枯れた木々と、かつては青かった黒い海の街だ。

 パイロットはふらふらした手つきで懐をまさぐる。
 取り出したのは手のひらから少しはみ出すほどの大きさの金属の箱。
 新しい弾倉?
 もしかして爆弾か!?
 ドディはそう思ったが、箱にはコルクの栓がはめてあった。
 パイロットはその栓を引き抜くと、箱の中の液体をグイッとあおった。
 スキットルボトルだった。
 気管に入ったのか、激しくせき込み、吐き出した。
 だが、再び飲み始める。
 ドディがそのボトルを取り上げようとした。
 中からこぼれたのは、紫の液体。
【ワインか? 
 俺たちの任務には、酔っぱらいの世話も含まれていたのか? 】
 ドディは唖然とした。  
【なんて飲みかたしてるんだ。
 それにここじゃ、風邪だけじゃなくて腹を壊すぞ】
 だが、次にかけられた言葉で、さらに唖然とすることになる。
【うるさい! 俺たちが作った酒だ!
 最高の酒だ!
 うらやましいだろ! 】
 ドディは、はらわたが煮えくり返った。
【お前、マトリクスのワイン業者だったのか。
 地域防衛隊だろ。
 なのに、自分の街を攻撃してるじゃないか!! 】
 侵略者にとっての戦略的価値を破壊し、「もうここにいる理由はない」と思わせて帰らせる。
 そういう事は確かにあったのだろう。
【俺たちは、侵略者じゃない! 】
 チェ連の戦略は結果、宇宙戦争は50年続き、惑星の環境は破壊されつくした。
 その破壊された分はどこに行く?
 奇跡的に無事だった、他の街の負担となるのだ。
 これではゴミをゴミ箱ごと捨てるような物だ。
ドディはそう言いたかった。

 だがパイロットは耳を貸さない。
さえぎって捲し立てる。
【うるせえ! 化け物!
 この星にお前らの居場所なんかない! 】
 ドディは、まだ言いたいことがあった。
 だが。

『ちょっと。こっちくんなよ! 』
 雨粒さえ震わせる、フーリヤの悲鳴。
 残り2機のロボットは腰につけた予備の重機関銃を構え、再び撃ち始めていた。
 弾は次々に、鳥に似たフーリヤの金属製の頭に当たり、火花を散らす。
『ここを襲ったって、起死回生の何かなんてないぞ! 』
 フーリヤは、ノーチアサンと同じように傭兵として地球にやってきた。
 しかし、その性格は虫も殺せない。
戦闘には参加できないが、メカニックとして雇われた。
魔術学園には、傭兵としての自分を乗り越えるため、入学した。
学園も、そういう理由ならぜひに。と受け入れたのだが。

【やばい。パニックになってる】
 ドディはそう判断した。思わずレミを見た。
 彼女も、ドディと同じ焦りをうかべていた。
【もともと、人を撃てる人じゃないですからね】
 レミがそう言ってパイロットを見た。
 パイロットは相変わらず酒を飲み、へたり込んでいる。
 レミは、何か一言かけたいらしい。
 しかし。
【行きましょう】
 レミの言うとうり、時間が惜しい。
 心配ではあるが、2人で残るロボットに向かって飛び立った。

 フーリヤは建屋の中に押し込んでいた翼を引き出し、大きく広げた。
 その黒い金属の羽には、小さなハッチがある。
 無数のハッチだ。
『こんにゃろ―!! 』
 そこから、なだれのように小さな灯が次々と放たれた。
 チャフ。
 レーダーの電波を乱反射させるアルミ片。熱監視センサーを迷わす燃えるマグネシュウムの熱源。それらのまばゆさでカメラを惑わせる欺瞞装置。
 チャフは、地上に下りて戦い続ける2機のロボットに覆いかぶさった。
 その光で雨の夜空に、一瞬だけ虹が光った。
 フーリヤは翼を建屋の回りに下げ、盾とした。
 まだ人が中にいるのだ。
『このっ! 』
 頭が右に、背中のレーザー砲が左を向き、光る。