ぺんにゃん♪
魚肉ソーセージにがっつくイヌを見るペン子の眼差しは、まるで絵画に描かれた優しい聖母のようだった。
ペン子は人だけではなく、動物にも優しかった。
しかしミケは無理に否定した。
「(偽善者なんだあいつ。そのうち絶対本性を現すに決まってる)」
しかし偽善者かどうかなど、本人がぼろを出さない限りは、人の心が読めなければわからないことだ。
ピキーン!
ミケはその本能から素早く気配を感じ取った。
パンダマン現る!
ミケは見てしまった。
「なんか生えてるーッ!」
パンダマンの頭に生えている謎の物体。
家族にすらその変化を気づいてもらえなかったのに。
「助ケテクレ、体ガ勝手ニ動クウウウウウウ」
「しかもしゃべり方がカタコトーッ!」
それも家族の誰にも気づいてもらえなかったことだ。
叫んでしまったせいで、ミケの居場所がペン子にバレてしまった。
「ほよ、綾織さんこんにちは。こんなところで会うなんて偶然ですね。パンダマンさんもご一緒ですか?」
偶然ここにいたわけでもなければ、パンダマンとご一緒したくているわけではない。
暴走パンダマンがゆく――煮えたぎる鍋を持って。
危険過ぎる、そんな鍋凶器以外の何物でもないではないかッ!
しかも鍋を持ったパンダマンはペン子に突進していた。
「助ケテクレレレレレレ!」
誰かに助けを求められたらペン子はほうっておけなかった。
「パンダマンさんどうしたのですか? ヒナはどうしたら?」
とりあえず逃げた方がいいな。
だがペン子は決して逃げないのだ!
迫り来る鍋。熱い熱い鍋。このままだとペン子とパンダマンが衝突して、きっと鍋の中身が降り注ぐ。
大やけど間違いなし!
だが、そうはならずにさらなる大惨事が待ち受けていたのだった。
ドカーン!
……あ、パンダマン爆発した。
爆発に巻き込まれながらもペン子は無事だった。さすがベルのトンデモ発明品。
ついでにどーでもいい話だが、パンダマンも虫の息で無事のようだ。
「お父さ〜ん!」
遅れてやってきたパン子。爆発音を聞きつけて飛んできたら、こんな有様だった。
その場で一部始終を見ていたミケとペン子ですら状況がつかめない。
ミケは虫の息のパンダマンの頭をわしづかみにして立たせた。
「おい、アホパンダ。誰に頼まれてペン子と心中しようとした?」
その言葉を聞いたパン子に衝撃が走る。
「心中……お父さん、お母さんって人がいながら不倫するつもりだったの!?」
虫の息のパンダマンは、
「体が勝手に動いて、なにがなんだか?(おっ、なんだか体が自由に動くぞ?)」
パンダマンはビシッと立ってラジオ体操をはじめた。しかもキビキビ、さっきまでの虫に息がウソみたいだ。
そう、こういう生物は生命力だけが取り柄なのだ!
すぐやられるが回復が早い。ある意味最強のキャラと言っても過言ではないッ!
しかし、ラジオ体操を突然やるなんて、他人から見たらまだトチ狂ってるようにしか見えない。
だがミケはパンダマンが正気なのではないかと(普段から狂気だという細かい話は置いといて)、推測をしながら辺りの気配を探っていた。
「はははーっ、体が動くぞ! わしのこのボディを見よ!」
ものすごい騒音妨害。
「うるせーんだよアホパンダ!」
ミケは大声を出していたパンダマンの後頭部を思いっきりぶん殴った。
「ゲバッ!」
奇声を発してパンダマンは倒れた――顔面を地面に強打しながら。
そのまま永遠の眠りにつくがいい、パンダマン!
ミケは再び辺りの気配を探りはじめた。
「(敵なのか? 敵だとしてもアホパンダをよこすなんて、もっとアホだ。狙いは……そうか、あのときのスク水星人かっ!)」
きっとそんな名前の宇宙人ではないと思う。
さらにミケは推測を続ける。
「(スク水が狙いということは、ペン子が狙いということだ。だがどうしてたかがスク水がそんなに重要なんだ?)」
たかがじゃないと何度言わせれば気が済むのだッ!
ミケはいつに敵の気配を取らえた。
「そこにいるのは誰だ!」
電信柱の影から現れた漆黒の騎士。その頭部には狗のような耳。さらに尻からは尾が伸びていた。
目を丸くしたパン子はミケと漆黒の騎士を交互に見て、
「ミケ様のお兄様?(ミケ様はカワイイ系で、お兄様はカッコイイ系だったんだ)」
「あんなヤツ知るか」
そう、ミケは相手のことを知らなかった。
しかし、相手は違うようだ。
漆黒の騎士の視線はミケに注がれていた。
「この卑怯者め。髪を染め、帽子を被り、さらには恥ずかしい女装までして我らを欺こうなどと。しかし、その程度の変装も見破れぬほど俺は節穴ではないッ!(絶対今の俺は決まってる!)」
「なぬーっ!」
驚きの声をあげたのはパンダマンだった。
「知らんかった。男だったのか」
なんだかガックリしたようすのパンダマン。
を全員華麗にスルー。
ミケはとてもめんどくさそうな顔をしていた。
「オレはアンタのこと知らないし。別にアンタを欺こうと思ってないんだけど?」
「貴様が俺のことを知らないのは当然だろう。だが俺の部下なら知っている筈だ。どこにやった!」
「そんなやつ知らねーよ(いや、もしかしてあのスク水星人か?)」
「知らないとは言わせないぞ。あいつは単独で貴様を暗殺に向かったあと……消息を絶ったのだ」
「(海まで流されて未だに戻らないんだな、きっと)」
かわいそうに。
ここまでのことをまとめると、ミケと似た獣の耳を持つ宇宙人が、ミケの命を狙っているということ。
ここで一つの仮説が立ってしまった。
そうだ、すでにキミたちも気づいているだろう。
ミケは宇宙人なのだッ!
しかしまだ完全にそうと決まったわけではない。今までの話を集約して導き出された仮説にすぎないだ。
漆黒の騎士は大剣の柄に手を掛け、
「まだ名乗っていなかったな。これから斬る相手に名乗るのがせめてもの礼儀であった。覚えておけ、そして心に刻んでおけ、俺の名はポチだ!(き、決まった)」
おそらく決まったと思ったのはポチだけだっただろう。
静かに漏れる失笑。
漏れる、漏れる、パン子の口からついに笑いが漏れた。
「ありえなーい! ポチだって、恥ずかしい。あんなにカッコつけてポチだって、ウケル。ぷぷっポチって」
ついにポチが剣を抜いた。しかし、その切っ先が向けられたのはパン子だった。
「なにが可笑しい女! ポチは由緒正しきワンコ族の英雄と同じ名前だ。全宇宙のポチに今すぐ謝れ!」
ペン子は『うんうん』と頷いて見せた。
「そうですよね。ヒナはポチって名前いいと思います。これからも胸を張って生きてくださいね、ポチさん」
「礼を言うぞペンギン!」
ポチは自信を取り戻したようだ。かなり単純だ。
大剣の切っ先はミケに向けられた。
「エロリック皇子、一対一の戦いだ、かかって来いッ!」
「……エロリックってオレのことか?」
「ほかに誰がいるのだ。エロリック七世・デス・ニャーとは貴様のことだろう!」
「そんな名前知らねーよ!(しかも地味に恥ずかしい名前だ)」
作品名:ぺんにゃん♪ 作家名:秋月あきら(秋月瑛)