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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第3話「犬も歩けば棒も歩く」


 ウワォォォォォォォォン!
「ついに、ついに見つけたぞ……悪しき一族め!」
 月明かりを浴びて壁に映ったヒト型のシルエット。
 そこには獣の耳が生えていた――。

 今日も長い学校の授業が終わり、やっとの思いで下校時間。
 学校嫌いな学生諸君の今日は、今からはじまるのだ!
 放課後……それはトキメキ。
 放課後……それは青春。
 放課後……それはパン子ちゃんが息を吹き返すとき!
 授業が苦手なパン子ちゃんは学校が終わると元気になります。
「ミケ様知ってますかー? この町もついにUFOの観光地になったらしいですよ」
「なんだよUFOの観光地って?」
 ミケは寮に向かう途中、いつものようにパン子につきまとわれていた。
「最近UFOがたくさん目撃されてるらしいですよー。それで町おこしの一環として市長がUFOを誘致したいとかって(でも、アタシが思うにUFOじゃなくてベル先生の発明だったりして)」
「それはありえるな。たしかにベル先生ならやりそうだ」
「あれ? アタシ口に出してた?」
「出してたぞ……はっきりと口にな」
 そう言ってからミケは急に早足になった。
「どうしたんですか急に?」
「別に」
「そんなクールなそぶりもネコみたいで好きですミケ様♪」
「ネコネコうるさいんだよ。言っとくけどな、しっぽだって生えてないんだからな!(あー腹立つ、この耳だってネコじゃなくてイヌかもしれないだろ)」
 二人が歩いていると、ちょうど前からペン子がやってきた。
「こんにちは山田さんに綾織さん」
 今日も元気に明るく笑顔なペン子。
 しかし、二人ともシカト。
 不機嫌そうなミケとプイッとそっぽを向くとパン子。
 それでもペン子は気にした風もなく笑顔で二人に話をはじめた。
「知ってますか? この町にも宇宙人さんがきたそうです」
「知ってるし」
 パン子ちゃんトゲトゲしい。
 それでもペン子はぽわ〜んとしたまま話を続ける。
「ぜひ宇宙人さんにもぺんぎんさんの良さを広めようと思うのです。そうしたらみんなきっと幸せになれるはずです。あの愛くるしい姿を前に争いごとなど起きるでしょうか。そうです、ぺんぎんさんとは平和の使者なのです。知ってますかみなさん? むかしむかしはぺんぎんさんたちはお空を飛んでいたのですよ。今は事情があって飛ぶことをやめてしまったみたいですけど、きっといつかはまたあの青いお空を飛ぶ日が来るのです。だからヒナたちは地球の環境を守り、大気汚染やオゾン層の破壊を食い止め、あの青い空と海を守らなくてはいけないのです。さらに……」
 まだまだペン子の熱い話は続きそうだったが、すでにそこにはミケとパン子の姿はなかった。

「ただいまー!」
 トタン屋根までパン子の声が響いた。
「「「「「お帰りなさいおねーちゃん!」」」」」」
 パンダのきぐるみを着たハモリ五人衆があられた!
 年の離れたみんな五歳のパン子の弟たち。つまり五つ子ちゃんである。
 パンダのきぐるみを着させられているその姿は、やっぱりちっちゃい子が着た方が可愛さを発揮することを思い知らされる。
 パン子はバッグの中から次々とプラスチック容器を取り出し、ひとつひとつフタを開けながらちゃぶ台の上に置いていった。
「今日もみんなからお弁当のおかず一品ずつもらってきたよ。しかもなんと今日はデザートもあるんだよ!」
「「「「「おぉ〜っ!」」」」」」
 瞳をキラキラさせながら見事にハモる弟たち。
 パン子が取り出したのは……リンゴ8分の1欠け。
 ひもじい、ひもじすぎる。
 まさかリンゴを兄弟分に分けるのではあるまいな?
「じゃあ、五等分しようねー」
 なんとあるまじき!
 本気で分けおったわこの娘!
 しかも、自分の分は抜かすという憎い演出。
 そこへ帰ってきたパンダマン。
「今帰ッタゾー」
 ブリキ人形のように歩くパンダマンは、そのままリンゴに手を伸ばした。
 パクッ。
 っと喰いやがった!
 パン子激怒。
「このクソオヤジぃ! 吐け、吐いて土下座して謝って校庭のグラウンド一〇〇周回ってワンと吠えろ!」
 パン子はパンダマンの首を絞めながら激しく揺さぶった。パンダマンの頭に生えた謎の点灯するボール付きの触覚も揺れる。
「揺サブルナ娘ヨ。学校ノ裏山デ取ッテオキノ食材ヲ見ツケテ来タゾ」
 ジャジャ〜ン!
 っと取り出したのはいかにも毒々しいキノコ。
 どう見ても毒キノコです。食べる前からごちそうさま。
 パン子の瞳が輝いた。
「今夜は鍋ね!」
 さっそくキノコを切り分けて、鍋で煮込みはじめた。ちなみにほかの食材は各種草っぽいものだ。
 待ちきれなくなったパンダマンがキノコにハシを伸ばし、レッツつまみ食い!
 パクッとな。
 次の瞬間、パンダマンが急に踊り出した!?
 しかもロボットダンスだ。
「カ、体ガ勝手ニ……助ケテクレ」
「もぉ〜ふざけないでよ」
 まったく相手にしないパン子。
 だが、パンダマンは必死だった。
「体ニ電流ガ走ッタヨウニ痺レルルルルルル」
 まさか毒キノコにあたったのかッ!
 幻覚作用か、それとも痺れて踊っているように見えるのか、それとも?
 あ、急にパンダマンが走り出した。
 しかも、熱い鍋=今夜の晩ご飯を持ったまま逃走。
 食べ物の恨みは怖い。特にこの家庭では怖い。
「クソオヤジ鍋持ってどこ行くんじゃボケッ!」
 鬼の形相でパン子は飛び出して行った。

 ペン子と別れたあと、やっぱりペン子のことが気になって、ミケは今日もストーカーをしていた。
 普通の住宅街を歩くペン子。やっぱりきぐるみは脱がない。
 しかもどうやら町の人気者。
「ペンちゃん今日も元気だね〜」
「ペンギンさんこんにちは!」
「よっ、ペンギン娘、元気にやってっか?」
 などなど、至る所で声をかけられる。
 しばらく歩いていると、道路の真ん中で泣いている子供がいた。
「どうしたぺん?」
 優しく声をかけたペン子。
 しかし、子供は泣いたまま鼻をズルズル鳴らしている。
 ペン子はどこからともなく棒付きキャンディを取り出し、それを子供にプレゼントすると、ようやく泣きやんでくれた。
 どうやら話を聞くと迷子らしく、そのあとペン子は子供を連れて町中を歩き回り、やがて母親の元へ送り届けた。
 その後も、困っているおばあさんを助けたり、見知らぬ青年の看病をしたり、オッサンに道案内をしてあげたり、交通事故に遭いそうになった子供を助けたり。
 ミケはそのすべてを疑いの眼差しで見ていた。
「(人前でいい顔してるだけなんだ、きっと)」
 しかしそれは違った、
 ペン子は裏路地の横を通り過ぎようとして、その足を不意に止めた。
 路地には薄汚く、痩せ細った、見るからに弱っている野良犬がいた。
 ゆっくりとペン子がイヌに近づこうとすると、威嚇するようにのどを鳴らしたが、すぐに力尽きてぐったりとしてしまった。
「ごめんね、いぬさんが食べられそうな食べ物はこれしか持ってないの」
 そう言って取り出したのは魚肉ソーセージだった。
「(なんでそんなもん持ってるんだよ)」
 と、ミケは内心思いながらも、成り行きを静かに見守った。