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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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 ペン子の言葉を聞いたミケは鬼の形相で引き返してきた。
「キサマかっ!」
「ハイ、アタシです!」
 元気な返事で認めた!
「まさかチラシの裏に書いた手紙もキサマか?」
「ごめんなさい。カワイイ便せんとかなくて、チラシの裏に書いちゃいましたー」
「謝るとこそこじゃないだろッ!」
 ミケはチラシをパン子に突きつけて、その一文を指さした。
「殺したいってなんだよ、殺したいって!」
「それは?殺しちゃいたいくらい愛してます?の略だったり」
「略すなよ! バカじゃねーの! オレのことからかって楽しいかよ!」
 怒鳴るミケを前にして、パン子は瞳に涙を溜めていた。
「……からかってると思ってるの?(こんなに好きなのにどうして)。アタシが心からミケ様が好きだってこと伝わらないの?」
「…………」
 ミケは黙ってしまった。
 そして、心の中で、
「(……伝わってるよ。でもそれすらもオレは信じられない)」
 ついにパン子の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「好きです……ミケ様のこと」
 パン子はミケに触れようと手を伸ばしたが、無情にもその手は振り払われた。
「触るな!」
「――ッ!?」
 手を振り払われたとき、ミケの爪によって手の甲が傷ついた。
 滲み出す悲しい血。
「ううっ、うぐ……うわぁぁぁん!」
 ついにパン子は大泣きして、この場から逃げだそうとした。
 だが、前を見ずに走ろうとしたパン子は、なにかにぶつかってはじき飛ばされて、さらに尻餅までついてしまった。
 パン子が目をこすりながら見上げると、そこにはまん丸のペンギンが――。
「アンタなんか大ッキライなんだから!」
 再び泣きながらパン子は姿を消してしまった。
 ぽか〜ん。
 目を丸くして首を傾げるペン子。実際には首だけではなく、体ごと傾げているが。
 ペン子はミケに見つめられていることに気づいてニッコリした。
「どうかしましたか?」
「おまえのことがよくわからない」
 突然の言葉でペン子は少し考えてしまったようだが、やがて静かに口を開いた。
「ヒナのことだけではなくて、山田さんのことも、ほかの人のこともあまりよくわからないのではないですか?」
「ほかの奴のことはわかるよ(わからないのはおまえだけだ。どうしてなんだ?)」
「だったらなぜ山田さんのことを泣かせるのですか?」
 なぜ?
 ひとときの間、ミケは考えた。
 しかし答えは見つからなかった。
 泣かせるつもりはなかった。けれどパン子は泣いて去っていった。
 そしてミケはひらめいた。
「(興味を持ちたくないんだ、きっと。でもペン子には興味がある。ペン子のことがわかったところで、やっぱりほかのやつらと同じだったら失望するだけじゃないのか。オレはペン子にいったいなにを求めてるんだ?)」
 なぜミケはペン子に興味を持っているのか?
 ピンポンパンポーン♪
 校内放送が流れる。
《至急ペンちゃんアタクシの研究室に来てちょうだぁーい》
 校内では無駄とも思えるセクシーな女性の声だった。
《ついでだから綾織も来い》
「オレまで?(しかもオレのときだけ命令口調)」
 呼び出される理由がわからなかった。
 放送の主は名乗らなかったが、声で誰だかすぐにわかる。ミケとペン子の担任の鈴鳴ベルだ。
 だが問題は――。
「研究室ってどこだよ。そもそもなんでそんな部屋があるんだよ」
「ヒナといっしょに行きませんか?」
「いっしょに行かない理由もないしな」
「はい!」
 元気にペン子は返事をして笑った。

 トキワ学園の地下になぜかある個人の研究室。
 部屋は頑丈そうな金属でできており、足の踏み場もないほど、謎の機器たちで散乱している。
 どうやら呼び出しておいて本人はここにいないらしい。
「ベルさーん!」
 ペン子が呼びかけると部屋の奥のドアが開き、中から白衣を着たブロンド女が苦しそうな顔をして出てきた。
「ううっ」
 腹を押さえて今にも死にそうだ。
 ペン子はすぐに駆け寄った。
「大丈夫ですかベルさん?」
「うん……こが出ない」
「ほえ?」
「便秘に効くって薬草をもらったから飲んでみたんだけど、出ないのよぉん!」
 お食事中のみなさま、便秘ネタでごめんね。
 ベルは爆乳の谷間からタバコの箱とジッポーを出すと、生徒の前で平然とタバコを吸いはじめた。そして、イスに座り紅いタイトスカートから覗くムチムチの脚を組んだ。
「で、アンタらなんでここにいるの?」
「アンタが呼び出したんだろ(こいつ教師失格だろ)」
 ミケはかなり不機嫌そうだ。
 真顔でベルはミケの瞳を見つめた。
「で、綾織どうなの学校生活は?」
「なんだよいきなり。別にアンタに関係ないだろ」
「関係あるわよ」
「なんでだよ、担任だからかよ?」
「違うわよ、青春が好きだからよぉん!」
「はぁ!?」
 ミケの理解を超えていた。
「アナタ転校ばっかりしてるんですって? アタクシもいろんな(問題を起こして)学校渡り歩いてるけど、新しい環境に戸惑ったりするものよね。でもね…… それが青春なのよぉん!」
「だからなんだよ?」
「生活態度がよくないって聞いてるわよ。せめてその帽子取ったらどう?」
「オレのこと晒し者にする気かよ?」
 ニットキャップの下にあるもの。
「耳のこと言ってるの? そのくらいどうってことないわよ。だってアタクシなんて悪魔だし、しっぽだって生えてるわよ?」
 と言って、ベルはイスから立ち上がると、スカートの中から伸びている細長いしっぽを見せた。ウナギのようにくにょくにょしながら、三角に尖った先端がミケの鼻先に突きつけられた。
「本当に悪魔なのかよ(つーかいつもはしっぽなんか生えてなかっただろ。隠してただけなのか、それとも騙されてるのか?)」
 ここでベルは失念していたことを唐突に思い出した。
「そうだ、ペンちゃんのPENGUIN(ペンギン)―SU?(スーツー)の整備してあげるんだったわ。もぉペンちゃんったら、もっと会話に割り込んで自己主張していいのよぉん?」
 さっそくPENGUIN―SU?こと、ペンギンのきぐるみの状態を見はじめるベル。
「はい、ペンちゃん右手あげて、左あげて、右下げないで右上げる。よしっ異常なし。ビームで撃たれたって聞いたけど、アタクシの発明品に傷つけようなんて一万光年早いわ。焦げて見たのもただの煤ね。現に洗ったらすぐ落ちたでしょう?」
「はい」
 ペン子が返事をした次の瞬間、ピキーンっと気配がした。
「(ペンギンのきぐるみはベル先生の発明品だったんだ)いいなぁ、アタシにもパンダのきぐるみ作ってくださいよぉ〜」
 物陰からこちらを見ているパン子だった。ミケとパン子が二人同時に呼び出されたと知って、居ても立ってもいられずストーカーしにきたのだ。
 ベルはパン子の目の前で手のひらを返した。
「一〇〇億円くらいくれたら作ってあげてもいいわよ」
「……アタシが貧乏人だからってバカにして! うわぁ〜ん!」
 また泣き出してしまった。
「(でもアタシ負けない。だってこのパンダのきぐるみは、お父さんが汗鼻水垂らして夜なべして作ってくれた大切なきぐるみなんだもん!)」
 パン子がんばれ!
 しかし、そんな大切っぽい思い出も、ベルの一言で吹き飛んでしまった。