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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第2話「妄想と暴走は似て非なるものですから」


 ざわざわ……ざわざわ……
 トキワ学園は今日も明るく楽しい喧噪に包まれていた。
「ねぇねぇ、ミケくんはどう思う?」
 隣の席の女子に話しかけられ、ミケはプイッと顔を背けた。
「別に……」
「かわいい〜!」
「(なんでカワイイになるんだよ)」
 そうは思いながら、頬は少し赤らんでおり、まんざらでもないようすだった。
 さらにほかの女子が駆け寄ってきた。
「綾織クン、いっしょにお弁当食べよ?」
 その言葉にミケは目を丸くして、心に温かい感情が過ぎったような気がしたが、
「ひとりが好きなんだよ(この学校のやつらはどいつもこいつも)」
 ミケは急に席を立ち、怒ったようすで教室をあとにしようとした。
 その後ろでは女子たちの楽しそうな声が聞こえた。
「きまぐれなネコみたいでカワイイ〜!」
 そして、ミケはさらに機嫌を悪くした。
 ミケは廊下に出てすぐニットキャップは深く被り直した。
 女子の制服を着て歩くミケの姿は、背もあまり高くなく細身で、可愛いと言われるだけのこともあって、見た目だけは女の子そのものである。
 はじめのうちは学園でも女子生徒だと思われていたが、クラスメートにはすでに男だとバレ、ほかの生徒たちにも広まりつつあった。
 ミケはひとりになれる場所を探した。その途中で好意的な声をかけられたが、ミケはすべてシカトした。
 人を近づけないようにしているのは明らかで、その要因はミケが抱えるいくつかの秘密にある。
 気の向くままに屋上までやってきたが、ここにも人がいる。けれど、少し歩き疲れたこともあって、ミケはここで少し休むことにした。
 フェンスに両腕を乗せて景色を眺めると、青い空と海が広がっていた。
 潮の匂いがそよ風に乗ってここまでやってくる。
 そう、ミケもまるで潮の流れに乗るように、この学園へ流れ流れやってきたのだ。
「(今まで転校した学校とはなにか違う。でもまだそんなに経ったわけじゃない。人はいつか裏切る……それは時間の問題なんだ)」
 なぜそこまでミケは自分を閉ざそうとするのか?
 ひとを拒むのだろうか?
 ミケは自らのあばらを強く押してみた。
「……っ」
 片目をつぶり、少し痛そうな表情をしたミケ。
「(もうだいぶ時間が経つのにな。前の学校ではだいぶやられたもんな)」
 強い風が吹いた。
 舞い上がるミケの帽子。
 慌ててすぐに拾って被り直したが、近くにした女子生徒に見られてしまった。
「あれが噂の彼じゃない?(本当にネコミミなんだ、かわいい)」
「ほんとだ、どっからどーみても美少女〜っ(いいなぁ、わたしもあんな風に可愛くなりたい)」
 ミケは二人の女子生徒の元へ不機嫌そうな顔で近づいた。
「頭に動物の耳なんか生えたヤツなんて人間じゃないし気持ち悪いだろ!」
 怒りをぶつけ、それ相応の反応をされると思ったミケだが、予想はあっさりと覆されてしまった。
「別にぃ〜。ねえ、だってこの学校にはトイレに住み着いてる幽霊とかもいるしね?」
 顔を向けられ同意を求められた友達も、
「鈴鳴(すずなり)先生とか魔界からやってきた悪魔だって自分で言ってるもんね?」
「ほら、パンダとかペンギンもうちにはいるし〜」
 この学園には変わり者が多いのも事実だ。
 そして、そのペンギンとの出逢いがミケに運命を変えることになるかもしれなかった。
 ――そう、あれは寒さのまだ残る春先の日のことだった。
 駅前にできた人だかりの中心で、フォークギターを片手に歌っていた巨大ペンギン。
 ペン子だった!
 決して歌はうまくなかったが、ペンギンがとにかく好きなんだなということは伝わる歌だった。
『ペンギン♪ ペンギン♪』と連呼する前奏かと思ったら、始終それが続いた。ペンギン好きでなければ歌えまい。
 唖然とするミケであったが、事態は一転することになってしまった。
 人混みに押されてミケの帽子が取れてしまったのだ。
 ざわめき立つ人々。
 はじめのうちは本物だとは思わなかった人々も、その耳が本物だとわかると口々に言いはじめたのだ。
 ――人間じゃない。
 みな奇異な目でミケを見た。
 ミケから距離を置こうとする者。またミケに近づこうとする者。
 雪崩のような声がミケの心の中に次々と飛び込んできた。
 怪物、妖怪、気持ち悪い。
 キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ……
「うるさい!」
 ミケは耳を隠し、頭を抱えながら逃げた。
 なり振り構わず人間たちから逃げた。
 誰もいない場所まで逃げた。
 ミケは誰も信じない。
 トキワ学園の生ぬるい環境に浸かりそうになっている自分を否定する。
 誘惑に負けて人を信じようと思っても、次の瞬間に裏切られることだってある。
 この学園にどんな変わった奴らがいようと、自分が普通の人間になれるわけがない。
 外に出ればやはり異形。

 屋上から飛び出したミケだったが、行く場所がなくなってしまった。
「(午後の授業ふけようかな)」
 下駄箱までやって来てクツを取り出そうとすると、中にチラシが入っていることに気づいた。
「(お一人様1個限り……ってスーパーの安売りのチラシ。嫌がらせか?)」
 自分の下駄箱をゴミ箱にされたのかと思ったが、チラシの裏に手紙らしき文章が手書きで書かれていた。
 ――アナタのことをいつもかげから見てます。殺してしまいたい。
 どう見ても脅迫文です。ごちそうさま、お腹いっぱいです。
 さらに手紙にはPSと書かれていた。
 ――今日のおべん当はおいしかったですか?
 ミケは今朝の出来事を思い出した。下駄箱を開けると、プラスチック容器――いわゆる○ッパー入った黒コゲの物体Xがあった。見なかったことにして捨てた。
「(……またイジメか)」
 ミケは深いため息を吐き捨てた。
 そこへパンダのきぐるみが駆け寄ってきた。
「ミケ様〜っ!」
「顔を見せるな」
 冷たい一撃が炸裂。
 グサッとパン子の胸に刺さったが、一秒もしないで立ち直る。
「ミケ様ってばドSなんですからぁ♪」
「おまえに対してな」
「それってアタシが特別ってことですか?」
「特別にキライだ」
 グサッ!
 さすがにダイレクトに?キライ?は堪えたようだ。パン子は床に両手をついてうなだれた。
「……グスン(でも負けない。アタシは一途にミケ様を思い続けるの、そういうところが自分でもカワイイと思う。大丈夫、ミケ様とアタシは結ばれる運命だから!)」
 そして、立ち直ったパン子は大声で叫ぶ。
「大好きです!」
 ミケは厭そうな表情をしたまま尋ねる。
「なんでそこまでオレのこと好きなんだよ。オレのことなんてなにも知らないだろ?」
「ええっと、ネコミミが好き。それにみんなも知っての通り、アタシって動物園の娘じゃないですかー?」
「知らねーよ」
「将来有望な園長だし、実はイヌよりネコ派だし、はじめてそのネコミミを見たとき、トキメキの出逢いを感じちゃったりなんかしてー(それでこれはストーキングするしかないと)」
 話の途中でミケはすでにこの場を離れていた。
 慌ててミケの背中を追うパン子。
「ミケ様待って! そうだ、アタシの作ったお弁当おいしかったですかー?」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!