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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第10話「幸せペンギンは空を飛ぶ」


 …………。
 ついに〈パンドラの箱〉は開かれ、厄災が世界に飛び出した。
 世界各地で異常気象による自然災害が起き、急に犯罪が増加し、人々はいがみ合い、憎しみが溢れ、悲嘆がいつまでも木霊した。
 しかし、彼らは絶望しなかった。

「オレが絶対にペン子を助けてみせる!」
 ミケはペン子を救うことを決意していた。なにがあろうとこの想いは変わらない。
 傷だらけのポチも同じ気持ちだった。
「貴様だけ格好の良いことをさせてたまるか。もちろん俺もいくぞ」
「ケガ人はすっこんでろよ」
「怪我など理由にならん。魂が朽ち果てようとも騎士は姫を守る!」
 横から女性の声が割り込んできた。
「くっさ〜」
 柿ピーをつまみにビールを飲んでいるベルだった。
「アタクシの神聖な研究室を臭いセリフで穢さない頂戴。てゆーか、アナタたちなんでここにいるのよ?」
 ベルの視線の先にはミケ、ポチ、パン子、バロンがいた。
 バロンは紳士らしく紅茶を飲みながら、無法者らしく勝手にくつろぎながらベルに視線を滑らせた。
「簡単に説明させてもらうとだな、〈ゲート〉を開いたらここに出たというわけだ」
「なるほどね、〈歪み〉がある場所は出口になりやすいものねぇん」
 凄まじい理解力だった。状況を瞬時に把握したようだ。
 パン子はひとり部屋の隅に立っていた。
「(このままペンギンがいなくなったらミケ様はアタシのもの)」
 頭を過ぎった黒い考え。
 それを聞いてしまったミケはパン子に平手打ちをしようと近づいたが、その足は途中で止まった。
「(でも本当はあの子がいなくなったら悲しい。だってあの子バカみたいにアタシにも優しくて、みんなからも好かれてて、だからミケ様を取られそうで嫉妬して。本当はごめんねって言いたいのに、だって本当はパンダなんかよりペンギンのほうが好きなんだもん)」
 いつも空回りしてばかりだった。傍目から見れば酷い子に見えるが、それはミケを一途に思い、周りが見えなくなっていただけ。
 それはミケにもわかっていた。
「(オレのせいなのかもな、パン子を暴走させてるのは)」
 ミケはこっそりパン子を見つめていた目を伏せた。
 少し離れたところにいたパン子が近づいてきた。
「アタシは待ってる(だってきっと嫌われてるから、アタシは行かないほうがいい)」
 そう言ってパン子は部屋を飛び出して行ってしまった。その背中にミケは手を伸ばすが、追いかけることはできなかった。
 ミケが別の場所に視線を移すと、壁に備え付けられた巨大モニターが目に入った。
 そこには荒果てた町と、その中心にある漆黒のドームが映し出されていた。漆黒のドームは〈闇〉だった。泥が流動するように動き、徐々にその浸食範囲を広げていく。
 おそらくあの中心にペン子がいる。
 映像を見るバロンの表情は重々しかった。
「(このような結果になるとはな、使い方を誤った末路だ)」
 ミケがバロンに詰め寄る。
「親父、あれがなんだか知ってるんだろ? つーか、なんで知ってんだよ」
「仕方あるまい。我が輩の偉大なる奇術の冒険譚を披露しよう」
「話は簡潔にしろよ」
 壮大な物語になる前に牽制した。
 バロンは立ち上がり、両手を広げ話しはじめた。
「あれは我が輩が宇宙の命運をかけて戦った時のことだ」
「(またはじまった。本人がマジだからどこまでがウソなのかわかんねーよ。絶対に誇大妄想だと思ってたのに、本当に変な魔法使いやがったし)」
 ミケはバロンの奇術とやらをずっと信じていなかったが、この場所にミケたちを瞬間移送させたのは、そのバロンの奇術だった。
「我が息子が簡潔にしろと言ったので短く話すが、〈パンドラの箱〉という奇術的な秘宝を手に入れた我が輩は多くの敵に狙われた。あの箱の中身は宇宙法則を覆すほどのモノが入っておるらしいからな。おそらくそのせいで妻もさらわれたのだろう。
 そんなわけで我が輩はその力を使って、とある?少女?を救ったというわけだ」
 見事に端折ったぞ!
 いくつかの疑問がミケにはあったが、ただ一つハッキリと確信したことは、
「今回の騒動は親父が原因かッ!」
 胸ぐらをミケにつかまれながらバロンは首を横に振った。
「確かにあの?少女?の内に秘宝を入れたのは我が輩だが、?少女?の命を助ける手っ取り早い方法がそれだったのだ。決して楽がしたかったわけではないぞッ!」
「親父とペン子どういう関係なんだよ! 命を救ったってなんだよ!」
「それは本人に直接お前が聞くのだ。我が輩は教えてやらんもんねー!」
 逃げるバロン。
 すぐにミケを追いかけようとしたが、モニターを見ていたポチが驚いた声をあげる。
「あれを見ろ!」
 〈闇〉のドームのすぐ脇に人影が倒れている。
 さらにドームからなにかが吐き出された。
 モニターが倒れる人にズームされる。
 裸の少女――アレックだった。

 静かな町、雨の音だけが響いている。
 アレックのいた場所に急いだミケとポチ。
 しかし、そこはすでに〈闇〉に呑まれたあとだった。
 〈闇〉の広がる勢いは小康状態に入ったのか、あまり動いていないように見えるが、またいつ動き出すかわからない。警察によって非常線が張られ、住民たちの避難が行われているが、彼らはこれがいったい何なのか知るよしもない。
 ポチが辺りを嗅いだ。
「こっちだ、奴の臭いがする」
 そのままポチに連れられて移動すると、シャッターの閉められた店の軒下で、蹲っているアレックの姿を発見した。
 アレックは目を開いているにも関わらずミケたちに気づかない様子で、瞬きもせず身体の芯か震えている。その顔は恐怖に引き攣っていた。
 ずっとアレックに怒りを覚えていたミケだったが、今のアレックに殴りかかるような気はまったく起こらなかった。そこにいたのは?なにか?に怯えるただの少女。
 ミケは自分の上着をアレックの背中に掛け、その場にしゃがみ込んだ。
「なにがあったんだ?」
「…………」
 アレックは答えず地面を見つめながら、その手はミケの袖を掴んでいた。震えがミケに伝わってくる。その震えは決して寒さのせいではないことがわかる。
 ミケはポチに顔を向けた。
「服とか探して来いよ、毛布でもなんでもいから」
「誇りある騎士は泥棒のような真似はしない。それに俺を使いっ走りにするな」
「探して来いよ」
「自分で行け……ん、なんだ?」
 ポチの視線の先に雨に濡れて歩くチワワがいた。
「あああっ、まさかアーロン様の超獣化したお姿かッ!」
 慌てたポチは駆け出し、それに気づいたチワワは驚いたようすで逃げ出した。そのままポチはチワワを追って姿を消してしまった。
 ミケは最初からポチなどいなかったことにした。
 震えるアレックを前にしてミケはどうしていいかわからなかったが、自分がそうされたときのことを思いだして優しく抱きしめた。
「(オレはこいつがどんな人生を歩んできたか知らない。オレの知っているこいつは周りを巻き込んで酷いことをしたこと、オレのことが大嫌いだってこと、そしてペン子の命を奪おうとしたことだ。オレのことが嫌いなのは別にいい、でもほかのことは絶対に許せない)」
 許せないが、今こうして抱きしめている。
「(妹)」