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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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「わたし昔からあまり泣かないのに……自分で覚えているだけなら、本当に数えられるくらいしか泣いたことないのに……」
 いつも笑顔だったペン子からは想像もできないほど、顔が崩れるほど泣きじゃくっていた。
 アレックは長剣の切っ先を地面に滑らせながら疾走した。
「女々しい奴め!」
 長剣が振り上げられた。
 ペン子はフリッパーで防ぐも、今度は大きく後ろに吹き飛ばされ、閉められた商店のシャッターにぶつかった。
 ゆっくりと立ち上がり瓦礫の中から出て来るペン子。
「やっぱりだめ。どうしていいのかわからない。あなたを止めなくてはいけないのに」
「余を止めるには、余を殺すことだ」
「それはできません絶対に。できるなら傷を一つつけることすらしたくありません」
「偽善だな」
 冷たい一言はペン子の胸まで届いた。
「……そうかもしれません。だって本当はあなたを憎いと思ってしまったことがあるから。それが本当に嫌で、もうヒナはなにもできないかもしれません」
「戦意喪失というわけか。余には関係のないことだが」
 相手が武器を捨てようとも、はじめから武器など持っていなくても、煌帝アレックは相手を殺す。
 長剣を構え直すアレック。
 そこへ一台の紅いバイクが二人を乗せてやって来た。
 バイクから降りたミケは両膝に手を付きながらアレックを睨んだ。
「……ペン子に……手を出すな」
 激しさを増す豪雨。遠くから雷音が聞こえる。
 アレックは嗤っていた。
「立っているのもやっとではないか、この死に損ないがッ!」
「死に損ないついでに……ペン子は守らせて……もらうぞッ!」
 しかし、叫ぶと同時にミケは地面に両手をついてしまった。
 もうペン子はなにもできなかった。ミケの姿を見た途端に崩れるように地面に座り、涙が止まらなくなってしまったのだ。その瞳はミケから伏せられていた。
「ミケちゃんに……こんな姿見られたくないのに、今の嫌な自分を……見られたくないのに……」
 その言葉を聞いたミケの脳裏に?少女?の幻影がフラッシュバックした。
 赤い靴の?少女?。
 あの?少女?は赤い靴など履いていなかった。その足は血だらけだったのだ。
 ミケは這ってでもペン子の元へ行こうとしていた。
「絶対に守ってやる……なにがあろうとな……昔にそれは決めたことだ」
 しかし、ミケの躰は言うことを利かない。
 そこへ差し伸べられる大きな手。
「我が息子よ、手を貸すか?」
「……親父」
「すまんな、いろいろ手間取ったのだ」
 ミケはバロンの手をがっしりと握った。
 そのとき、ミケはある物を同時に握らされ受け取った。
 開かれたミケ手のひらには、猫の眼に似た宝石についた指環があった。
 閉じられていた猫の〈眼〉が開くッ!
 立ち上がったミケの白銀の髪が逆立ち、今までなかった長い尾が生え、やがて静寂と共にすべてが治まった。
 バロンはその変化に気づいて再びこう言った。
「我が息子よ、手を貸すか?」
 ミケは首を横に大きく振って見せた。
「いいや、オレの意地がある」
 その変化にアレックも気づいていた。
「貴様が力を取り戻したところでなにも変わらん!」
 アレックはミケではなく動けずにいるペン子に斬りかかろうとしていた。
 疾走するアレックの前に突如ミケの残像が現れ、強烈な拳を頬で受け止めた。
 血の混ざった唾が飛沫になって飛んだ。
 口元を拭きながらよろめくアレック。
「なかなかのパンチだな」
「親父仕込みだ。本当は親父には女を優しくしろって言われてるんだけどな。てめぇは別格だ」
「戦いに男も女も関係ない。余も女扱いされるのは虫唾が走る」
 二人の会話を聞いていたバロンは顎を外していた。
「なんとあるまじき、あやつお嬢さんだったのかッ!(ボッコボコにしてしまった)」
 ショックを受けまくるバロンだが、後悔先に立たずである。
 拳を鳴らすミケ。
「本気で行くぞ」
「元より余は本気だ」
 速い!
 互いに凄まじき速さであったが、ミケのほうが勝っていた。
 アレックは為す術もなく全身に連打を浴びていた。
 下からのパンチによってアレックの躰を宙に飛ばし、さらにミケは飛翔して上からアレックを地面に叩きつけた。
 地べたに這い蹲るアレック。
「おのれ、このような屈辱はじめてだッ! 余は、余は誰よりも強くなければならない。さもなくば残された道は死なのだッ!!」
 剣を持つことも忘れたアレックが四つ足の獣のように飛びかかって来た。
 ミケは赤子の手をひねるように、難なくアレックを殴り倒す。
 再び地べたに這い蹲ることになってしまったアレック。
 まるで四つ足の獣のようにしてアレックがゆっくりと立ち上がる。
「おのれおのれおのれーッ!」
 ドグゥンッ!
 アレックの躰が大きく跳ねた。
「余は煌帝でなければならない!」
 ドグゥンッ!
 曇天を奔る稲妻の咆吼。
 稲光を背にしたアレックの白銀の髪が波打つように揺れた。
 その肢体に変化が訪れる。太ももに伝わる鮮血。全身を包み込む白銀の毛。鎧を破りながら骨格から何から変化していく。
 それはアレックにとってはじめての超獣化であった。
 ――巨大な牝獅子が覚醒(めざ)めた。
 二階ほどの高さから緋の眼で見下す牝獅子。咆吼でミケを威嚇した。
 刹那、ミケは巨大な前足によって大きく吹っ飛ばされていた。変身前のアレックを凌駕していたミケですら躱せなかったのだ。
 ミケは全身を打撲したが、その痛みもすぐに治まっていく。
「今なら牛乳を飲まなくても変身できる気がするけど、オレはもう二度としない!」
 そのミケの視線はぐったりとするペン子に向けられていた。
 あえて超獣化はしない。おそらく今のミケであれば、完璧な超獣化を遂げられ、その力はアレックと同等か、それ以上の力を手に入れるだろう。だがその道をミケは選ばなかった。
 牝獅子は暴れ狂っていた。もはやミケやペン子など関係なく、破壊の限りを尽くす魔獣。ミケが少しずつ大切さを自覚しはじめた想い、世界が破滅させられようとしていた。
 果たしてこの魔獣を止められるのか?
 ミケがバロンに向かって叫ぶ。
「親父、やっぱ手貸してくれ!」
「二本だけならよいぞ。作戦はあるのか?」
「ない!」
 言い切ってしまうほど切迫した状況だった。
 バロンが手のひらの上に拳を叩く。
「尻尾を切るというのはどうだ? 尻尾がなかったおまえはこんな巨大な獣に変身したことはないぞ。ただ指環がなく力が足りんかったという可能性もあるが」
「だったら指環だ、指環さえなくなれば体力が激減するはずだ……違う、指環の力を使えばアレックがオレにしたように力を吸い取れるかもしれない!」
 ミケは素早い動きで牝獅子に近づいた。
「とは言ったものの、指環の使い方がわかんねぇーよ!」
 猫眼の指環が鳴いた。静かな輝きを放ったミケの指環がなにを訴えている。
「行ける!」
 指環の使い方はわからなかったが、漲る自信をミケは感じた。
 凍てつく吹雪を口から吐く牝獅子。そこにミケの姿はない。ミケは驚異的な跳躍力で天高く飛翔していた。
 牝獅子の毛にしがみついて振り落とされまいとするミケ。
「力を貸してくれオレの指環!」