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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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 今度は躰が膨れ上がり上半身の服が破れた。露わになった皮膚は白銀の短い毛で覆われている。
 ミケの視線の先で、自らの手の爪が鋭く、まるで猛獣のように伸びはじめる。
 手の甲も毛に覆われてしまった。
 そのとき、玄関のドアが開きバロンが帰って来た。
「今帰ったぞッ! 我が息子よ帰っておるか……なんとあるまじき!」
 バロンはそこに気高く立っている獣を見た。
 白銀の鬣(たてがみ)を噴き出す氣によって靡かせながら、燃えるような緋の眼を持つ獣人の姿を――。
 ガゴォォォォォォン!!
 咆吼をあげたミケが鋭い牙を剥きバロンに飛びかかって来た。
「あれほど牛乳を飲むなとッ!」
 バロンは飛びかかって来たミケを受け止め、そのまま反動を利用して床に背中をつけて、足の裏でミケの腹を押し上げて、投げたァァァッ!
 投げられたミケは玄関の外まで吹っ飛び、四つ足で地面に着地した。
 そのまま走り去ってしまったミケ。
「我が輩を置いていくなッ!」
 ミケは完全に暴走していた。
 チョウチョを追いかけ、ミケは地面から校舎の三階まで飛び跳ね、そのまま窓から校内へ入った。
 ちょうどそこではペン子とパン子が授業を受けていた。
 生徒たちが口々に言う。
「巨大なネコ!」
「いや、ライオンだろ」
「狼男だろ?」
 だが、その正体にペン子はすぐ気づいた。
「綾織さん!」
 黄金の鈴がリンと鳴った。
 ミケがいつも首につけている鈴。
 そして、鈴鳴ベル!
「アタクシの授業を妨害しようなんて良い度胸してるわねぇん!」
 すぐさまベルは白衣のポケットからロケットランチャーを出して肩に担いだ。
 さらにすぐさま生徒たちが逃げ出してすぐさまロケット弾が発射された。
 シュオォォォォォォーーーン!
 ドゴォォォォォン!
 ロケット弾はミケに直撃して大爆発を起こした。
 煙が晴れると、窓の吹き抜けがだいぶ良くなっていた――というか、窓側の壁がすべて崩れ落ちていた。
 しかし、そこにミケは立っていた。
 美しい白銀の毛。そこに一滴の血すらついていない。
 ベルが叫ぶ。
「うんこ漏れそう!」
 このチャンスを逃してはならないとベルはトイレへ駆け込んだ。
 ミケは明確な目的はないらしく、そこにある机や椅子を滅茶苦茶にひっくり返して暴れた。いや、戯れていると言ったほうがいいかもしれない。
 そんな教室が大惨事になっている中、パン子は一番後ろの角席で、すっかり熟睡していた。授業中に眠くなったのだから仕方がないッ!
 生徒たちの大半はすでに避難して姿を消してしまった。数少ない逃げないで見守る者の中にペン子がいた。
 そして、勇敢にもペン子はミケに近づいた。
「綾織さんその姿どうしたのですか?」
 いつもと変わらぬ笑顔で投げかけた。
 だが、急にミケはその標的をペン子に定めた。
 鋭い爪をペン子に振り下ろされる!
「させるかエロリック!」
 キンッ!
 大剣がミケの爪を退けた。
 ペン子を守るように立つポチの姿。
「姫をお守りするのは騎士の勤め(今日の俺は決まってる!)」
 ガルルルルルル!
 ミケが低く喉を鳴らした。
 大剣を構えてポチはペン子を後ろに下がらせた。
「安全な場所に。どうやら今のエロリックは半端な超獣化(ちようじゆうか)をして、さらに自我が保てないらしいな」
 寝ぼけているパン子が手を挙げた。
「は〜い先生、超獣化ってなんですかー」
 そう言ってまた寝た。
「超獣化とは我ら獣人の一部が有している変身能力のことだ。学者たちは先祖返りだと言っているが、俺は進化だと思っている。超獣化した者は強力な力を手に入れるからだ。しかし、理性や知能が著しく低下することが多く、本能の赴くままに行動することを考えると、先祖返りという説が正しいのかも知れない。変身の切っ掛けには個体差がある……俺の場合は大量の血によって、エロリックの場合は?」
「牛乳だ!」
 と言って現れたのはバロンだった。
 ピピピピピ……
 アラームのような音が響いた。
 バロンの時計の音だった。
「おっと、営業の時間だ。では諸君、さらばだ!」
 バサッとマントを翻しながら姿を消したバロン。
 そんなこと構わずミケとポチは戦いを繰り広げていた。
 大剣はその大きさゆえに小回りが利かず、ミケの爪の攻撃にかなり踏み込まれてしまう。
 そしてついに覚醒(めざ)めるパン子!
「きゃっ、なにあの狼男!」
 寝起きで驚いたパン子にペン子が教える。
「綾織さんです」
「ペルシャ猫男だったの!?」
 ミケとの戦いで手が離せないポチだったが、どうしても修正したくて叫ぶ。
「ニャー帝国の皇族はアルビノの獅子。つまりホワイトライオンだ!」
「ライオンってネコじゃないじゃん……ポチって意外にバカなんだ」
 フフンと笑うパン子の横で申し訳なさそうにペン子が、
「ライオンさんはネコ科の動物ですよ」
「えええっ!」
 動物園の娘に衝撃が走った。さすが名ばかりの山田どうぶつ園の娘だ。
 追い詰められたポチはついに狂剣の力を解放しようとした。
「止むを得ん。我が狂剣ウルファングの力を今こそ――」
 などと言ってる間にミケはパン子に襲いかかっていた。
「やめてミケ様!」
 しかし、パン子の声はミケに届かなかった。
 鋭い爪が振り下ろされる。
 すぐにポチがパン子の前に回り込む。
「疾風斬り!」
 薙いだ大剣がミケの腕を斬った。
 ウォォォォン!
 鋭い爪はポチに振り下ろされた。
「クッ!」
 後方に大きく飛ばされたポチ。その漆黒の鎧の胸当てには、深い爪痕が穿たれていた。
「鎧を着ていなければ確実に即死だったな……」
 互いに牽制し合うミケとポチ。
 その間にペン子が立った。
「もうケンカは止めてください。これ以上誰も傷ついて欲しくありません」
 しかし、その声すらミケには届かず、あろうことかその牙をペン子に向けようとしたのだ。
 そのときだった!
「待ちな!」
 その声にミケは動きを止めた。それほどまでに鬼気迫る男の声だった。
「今日こそパンダだけに白黒つけようじゃねーか。帰ってきた正義のヒーローパンダマン参――ぶげッ!」
 ミケのフックパンチを喰らったパンダマンは、吹き抜けのよくなった窓から飛んでいった。
 自分で飛ばしたパンダマンを追いかけてミケが外に飛び出した。猫の習性だ。
 ペン子も三階から飛び降りてミケを追う。
 校庭に出たミケはパンダマンをボールにしてじゃれている。
「うぎゃ〜殺される〜いてーマジいてー!」
 血だらけになるパンダマン。
 ――一方そのころ、ホストからIT社長に転身したパンダマン弐号は、一〇〇億円の契約書にサインをしようとしている、まさにそのときだった。
 そのとき、パンダマンは血だらけになりながら、地面に血のサインを残していた。
『知ってるか?パンダのしっぽって白なんだぜ?わしは今日知った』
 そんなこと書いてるヒマあるなら逃げろよ。
 ペン子は両手を大きく広げて叫ぶ。
「もうやめてください!」
 ミケはペン子に飛びかかった。
 両手を広げたままペン子はそこを動かず、自分の胸に突進してきたミケを力一杯受け止めた。
「傷つくのも傷つけるのも……もう嫌なの!」