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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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 顔は痣だらけで腫れてしまい、鼻や唇から血が出ている。
 すぐにペン子はハンカチを出して駆け寄ろうとしたが、先にパン子がポケットティッシュを出して駆け寄った。
「ミケ様大丈夫ですか!」
「近寄るなよ!」
 ミケは立つのもやっとであったが、うまく上がらない手でパン子を振り払った。
 よろめきながら歩き出すミケ。ペン子はただ見つめるだけで近づけなかった。
 しかし、次の瞬間!
 ミケは椅子を倒しながら転倒し、そのまま気を失った。

 ベッドの上で目覚めたミケ。
 目を開けた先にはポチがいた。
「なんでいるんだよ?」
「貴様が気を失ってる間に報復がないとも限らん」
「報復するならアンタがオレにだろ?」
「誇り高きワンコ族はニャース族のような卑怯者ではない。やるなら正々堂々と戦う」
「いっそのこと意識がないうちに殺して欲しかった」
 体中が痛い。悲しいほど痛い。
 痛みで悲しいのではなく、この痛みの元凶になったモノが、痛みの大きさと比例しているように悲しさを呼び起こす。
 ポチは天を仰いだ。
「ニャース族で〈サトリ〉の能力を持つ者は忌み嫌われる。辺境の地であるここですら、貴様は嫌われ者だ」
「知ってるよ」
「そんな能力は不幸しか喚ばない(あるべきではない力だ)」
「オレもそう思う」
 ミケ自身がもっとも痛感している。自分の人格を形成した要因で、大きな割合を占めているのはこの能力にほかならない。
 ミケはベッドから体を起こした。
「オレと戦え」
「傷ついた貴様とは戦えん(無惨な貴様に勝ったとしても、後味の悪さを一生背負いそうだ)」
「真剣勝負にコンディションなんて関係ねーだろ」
 鬼気迫るほどミケの眼差しは真剣そのものだった。
 それにポチは根負けした。
「(傷ついた躰にも関わらず、戦うことを決意した戦士の申し出を断っては、逆に恥じる生き方をしたことになる……か)いいだろう、しかし勝負をするからには一切の手を抜かん」
「オレは端から全力でやるつもりだ(それで死ねればいい)」
 二人は屋上へ向かうことにした。
 まだ授業中で誰の邪魔も入らないはずだ。
 屋上は潮風が吹いていた。
 少し離れた位置で対峙する二人。
 ポチがミケの足下に鞘に入った長剣を投げた。
「俺の予備の剣だ。せめて武器くらい持て」
「オレに武器なんか与えて後悔するぞ」
 二人は鞘から剣を抜いた。
 どちらも仕掛けない。その場に立ち、神経を研ぎ澄ましている。
 ポチが口を開く。
「ペンギンのことどう思ってる?」
「嫌いだ。アンタは好きなんだろ?」
「うるさい、人の心を勝手に聞くな!(本当に嫌な能力だ)」
「(別に〈サトリ〉で聞かなくても見てればわかるけどな)どうしてこんな話した?」
「貴様がペンギンのこと影でこそこそ尾行しているからだ(どう考えてもペンギンのことが好きとしか)」
 緊張を解いてミケがフッと笑った。
「ペン子のストーカーしてたのはな、あのきぐるみを脱ぐ瞬間に立ち会いたかったからだよ」
「変態かッ!」
「違うわボケッ!」
 神速のツッコミだった。
 ミケはその理由を語りはじめる。
「ペン子には〈サトリ〉が効かないんだよ」
「〈サトリ〉の能力でもすべてを知ることはできないと聞いたぞ?」
 ミケ以外の事例の予備知識ならば、ポチのほうが豊富かも知れない。
「オレもそう思ってる。けど、まったく聞こえないなんてありえない。だからオレはあのきぐるみのせいじゃないかと思って、脱ぐ瞬間をずっと狙ってたんだよ」
「〈サトリ〉の能力は多くを知ることができるが、ときに酷く盲目なのだな。〈サトリ〉の能力が効かない人間がいると、それが心配の種になるというわけだろう?(貴様は〈サトリ〉の能力なしで人の心を知る方法を知らんのだな)」
「〈サトリ〉の能力で人の心を聞いた方が確実だよ。人はウソをつく」
「人を信じられないことは悲しいな」
「信じないんじゃない、事実が聞こえてしまうんだよ。だからオレは人といられない、孤独なんだ」
 その言葉にポチが首を横に振りながら言う。
「事実……すべてが聞こえないというのに事実か。ペンギンの心は見通せないのにな」
「…………」
 言葉を失ったミケは、すべてを消し去るように、がむしゃらにポチへ斬りかかった。
 ポチはミケの一撃を大剣で受け、そのまま薙ぎ払った。
 剣ごと押し飛ばされたミケはそのまま激しく地面に転がった。手から離れた長剣。これが最後の力だった。
 もう本当に身動きできないミケに、ポチは大剣を振り上げた。
 ミケが死を望んでいることを、〈サトリ〉などなくともポチは感じ取った。
 一瞬のためらい。
 強い風が屋上に吹き、その風と共に現れた真っ赤な男。
「犬っころ、我が息子から離れてもらおうかッ!」
 そこに立っていたのはバロンだった。
 ポチは大剣を下げた。戦う意志は消えていた。鞘を拾い上げるポチはミケとバロンに背を向けていた。
「邪魔が入ったから戦いをやめるのではない。貴様は決して孤独ではないからだ」
 ミケはこれまで多くの出会いと決別を経験してきただろう。きっと最後はことごとく別れたはずだ。
 しかし、バロンだけはずっと傍にいた。
 姿を消したポチ。
 バロンが手を貸そうとしたのを無視してミケは自力で立ち上がった。今は手を借りる気にはなれなかったのだ。
「我が息子よ、その怪我はあの犬っころにやられたのか?」
「違う。その前に学校のヤツらにやられた」
「またか。我が輩の目から見て、この学園は今までの中ではマシだと思ったのだがな」
「今までの中ではな。でもどこも同じだよ、結局は」
 ミケはバロンを置いてこの場をあとにした。

 まだ生徒たちは授業中だが、ミケは構わず寮まで戻って来た。
 部屋の中に入るとすぐにベッドで横になろうと思ったが、テーブルの上に牛乳パックが置いてるのを見つけて足を止めてしまった。
「(親父がしまい忘れたんだな。オレには絶対飲むなって言いながら、親父は牛乳大好きだから毎日飲んでるよな)」
 ミケは牛乳を片づけるのも面倒で、そのまま通り過ぎようとしたのだが、
「(牛乳アレルギーだから飲んだら死ぬぞって言われてるんだけど、飲んだ記憶すらないんだよな。本当に飲んだら死ねるのか?)」
 牛乳パックを手にとって、口を開けて匂いを嗅いだ。それだけではなにも起きない。
「(こんな世界滅んじまえばいい。でもそれは無理なのはわかってる。だとしたら道は一つだ)」
 ミケは牛乳を一気飲みした。
 パックのままでは飲みづらく、口の端から白い液体が垂れ流れる。
 空になるまで飲み干したが、なにも起きなかった。
「牛乳ってうまいな(しかもなんか力が沸いてきたような)」
 現に身体の痛みが消えていくような感覚だった。
 ドグゥンッ!
 急に心臓が大きく脈打った気がした。
「うっ……身体が……(クソッ、なんだこれは!?)」
 呼吸が乱れ、動悸が激しくなる。
「(これがアレルギーか)」
 胸が苦しく身体が熱い……しかし気分は昂揚していた。
「(なにか……来るぞ!)」
 ドグゥンッ!
 ミケの身体が跳ね上がった。
 白銀の髪がざわざわっと動き、凄い早さで伸びはじめた。
 ドグゥンッ!