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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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 高ぶった感情で叫んだペン子は、そのままミケに押し飛ばされて地面を何度も何度も転がった。
 ペンギンスーツがペン子の体を守ったが、頬は少し擦りむいてしまった。
 壁のない教室の縁に立つパン子は泣いていた。
「あんなのアタシがスキなミケ様じゃない!」
 今までミケに邪険に扱われても一途だったパン子が、ついにミケを突き放した瞬間だった。
 立ち上がったペン子は再び両手を広げた。
 再びミケがペン子に飛びかかる。
 ペン子はそれを全力で受け止め、ミケの躰を強く抱きしめた。
「あなたは孤独じゃない。だからひとを拒まないで……」
 しかし、再びペン子は押し飛ばされて地面を転げ回った。
 トイレから戻っていたベルがいつの間にかパン子の横に立っていた。
「ペンギンスーツの実力を持ってすれば、あんなネコ簡単に始末できるのにねぇん」
 まぶたを腫らしたパン子の中で気持ちが渦巻いていた。
 ミケに襲われたときの恐怖。鋭い爪があと一歩で自分の身体を切り裂いていた。そのときにミケと自分との間に、大きな隔たりがあると感じてしまった。
 でも……
「ミケ様はアタシが助ける、絶対に元に戻してあげるんだから!」
「それこそアタクシの求める青春ねぇん!」
 ベルは歓喜に打ち震えて身もだえたが、
「でも、ただのきぐるみでどうやって立ち向かうつもり? 弱点でも知っているのかしらぁん?」
「そうだ、ミケ様は寒いのが苦手!」
「ふ〜ん、ならアタクシが少し手を貸してあげましょうねぇん」
 そう言ってベルが自慢げに白衣のポケットから取り出した、謎のコントローラー。
 ジャジャーン!
「気象コントローラーよぉん! このコントローラーを操作して雪にセットしてボタンを押すと……」
 ゴォォォォォォォォ!
 いきなり猛吹雪に包まれ視界がゼロに等しくなった。もうペン子とベルのいる場所から、ミケやペン子は確認できない。
 吹雪に紛れた白銀のミケ。その姿はペン子にも発見できなかった。
 ペンギンスーツには防寒機能もついていたが、ここであえてペン子はペンギンスーツを脱ぎ捨てた。
 吹雪に包まれるペン子。かろうじて両手を広げる輪郭だけが見えた。
 白に閉ざされた世界の向こうから、獣の咆吼が聞こえた。
 雪を蹴り上げてミケがペン子に襲いかかった。
 鮮血が雪の上で迸り、刹那に消えた。
 腕から血を流しながらペン子はしっかりとミケの躰を抱きしめていた。
「ヒナの心の音が聞こえますか?」
 ミケはペン子の胸に抱かれながら、その心臓の音を聴いた。
 穏やかすぎるほど落ち着き、一点の乱れもなく、心地よく脈打つ心の音。
 風に乗ってミケの毛が抜け落ちていく。
 そして、膨れ上がった筋肉が徐々に縮んでいき、ペン子の胸の中にはいつものミケがいた。
「……ペン……子?」
 薄れゆく意識。まぶたが重く閉じていく。
 気を失ったミケの身体が膝から崩れた。
 ペン子はミケのことを優しく包み続けた。
 やがて吹雪は二人の身体を雪に沈め、冷たく閉ざされた世界に封じ込めた。

 ――燦然と輝く日差しがまぶたを照らす。
 ミケは目を覚ました。
 雪解けの春が訪れたような温かい陽気。
「ミケ様ー!」
 雪を掘り起こしたパン子がミケを見つけた。瞳に涙を溜めながらも、歓喜に満ちあふれた表情をしていた。
 〈サトリ〉で聴かなくとも、その表情がなにを意味するかミケは強く感じ取った。
 ほかのクラスメートたちも心配そう顔、嬉しそうな顔をしながら、ミケとペン子を雪の中から掘り起こしていた。
 ミケは自分の身体がペン子に包まれていることに気づいた。いつもと同じペンギンのきぐるみを着たペン子に――。
 超獣化したあとの記憶がミケはあやふやだった。それでもおぼろげに残る記憶から、暴れ回り、ペン子を傷つけてしまったことは覚えていた。
 ミケのすぐ目の前にあるペン子の顔は微笑んでいた。
「綾織さんだいじょうぶですか?」
「……ああ」
 その笑顔にミケは癒された気がした。
 見つめ合う二人。をパン子が引き裂いた。
「ペンギンのクセになんでミケ様に抱きついてるの信じらんない!」
 パン子は雪の中からミケを引っ張り出して自分が抱きしめた。
 ぽわ〜んとしながらペン子は、
「吹雪の中でぺんぎんさんたちがおしくらまんじゅうをして、体を温め合う行為をハドリングというのです。今回は二匹だけでしたので、そう呼べるかわかりませんけど」
「そんな話聞いてないしー!」
 わめくパン子をうっとうしそうにミケは押しのけた。
「オレに抱きつくなよ」
 だが次の瞬間、膝が崩れて倒れそうになったのを、いつかミケのことを裏切った宇田桐が肩を貸して助けた。
「あのときは本当にごめん」
 涙を流していた宇田桐にミケはなんと声をかけていいかわからなかった。
 ただ、小さく頷いて見せた。
 白銀の獣。
 飢えた獣はなに飢えていたのだろうか?
「……みんなありがとう」
 ミケは小さく呟いた。
 そして、校庭の真ん中には二つの尻尾が雪の中から生えていた。
 片方の尻尾が丸くて黒いことは言うまでもない。