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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第7話「メタモルフォーゼ」


 ドンドンドンドンドンドン!
 ミケの部屋のドアをタコ殴りするパン子。
 今日でミケが学校を休んで三日。
 その間、パン子は毎日通い詰めたが、扉が開かれることはなかった。代わりに一度だけドアを蹴った衝撃と音があった。
 今日もめげずに部屋のドアを叩き続けるパン子ちゃん。
「(アタシ負けない!)」
 ドンドンドンドンドンドン!
 ガツン!
 中からドアを蹴る音がした。
「うっせーんだよパン子!」
 ついにミケの声がした。
 パン子は一歩前進した気分だった。
「ミケ様、学校行きましょうよー。今日もお弁当作ってきました。な、なんと砂糖入りの厚焼きたまごですよー!(ちょっとコゲちゃったけど)」
 ガチャ。
 カギの開く音がした。
 そして、勢いよくドアが開かれドゴッ!
 パン子は鼻を強打した。
「ううっ、ミケ様……開けるなら先に言ってくださいよ」
「うるせーな」
 そこにはミケが立っていた。立っていたのだが、立っているのはいるのだが、立っている姿を見てパン子は眼を丸くして驚愕した。
「ええええっミケ様?!」
「なんだよ?」
「だって、いつもと……」
 いつも被っているニットキャップはなく、髪の毛も黒じゃなくて白銀。しかも、男子の制服を着ている!
「ミケ様、不良になられたんですかーッ!」
「ちげーよ。髪の毛はこっちが地色なんだよ」
 睨まれたパン子はさらにミケの違いに気づいた。
「あっ!? ミケ様って黒い瞳でしたよね? 赤に変わってるーッ!」
「赤じゃなくて緋色だよ。今まで黒いカラコンで隠してたんだよ(そう、オレはなにもかも偽っていた)」
 瞳の色まで見ているパン子のストーカーっぷり。
 なぜミケのことなら気づくのに、父親が変わっていても気づかないのだッ!
 パン子は急にモジモジして顔を真っ赤にした。
「(ミケ様テライケメン。女装も良かったけど、まさか男装するとここまでとは。ああン、素敵すぎて萌え死ねる。今日もごはんがおいしく食べれそう)」
 そんなパン子を放置でミケはさっさと学校へ向かった。

 ミケの登校は瞬く間に騒ぎとなった。
 ――あの可愛かったミケちゃんが不良の道に走った。
 そんな噂が口々に囁かれたが、
「(あたしこっちのほうがスキかも)」
 女子のウケは好いようだった。
 しかし、男子生徒たちの見る目は良いものとは言えなかった。
 ミケを睨む者、蔑む者、避ける者。今日のミケの姿だけが関係しているのではなく、どうやらこの三日の間に不穏な空気が流れたらしい。
 ミケのことを睨んでいるヤツも、パン子が通り過ぎると笑顔で挨拶をする。さらにペン子に笑顔を向けられると顔がゆるむ。ついでにベルが通り過ぎると背筋を伸ばして、九〇度に頭を下げる。
 この学園にいる変わった女子三人は、決して嫌われ者ではない。たとえパンダでもペンギンでもデビルでも、中身である人間性によって好かれたり慕われたりウニョウニョされたりしているのだ。
 しかし、ミケの態度は転校初日から今日まで変わらず、人を避け、素っ気なく扱い、ときにシカトした。人望があるとは言えなかった。
 もともとアンチミケの流れがあることを、ミケ自身も気づいてはいたが、それが表面化してくることはなかった。
「(生ぬるい環境でオレの感覚が鈍ってたんだな)」
 キッカケに後押しされた流れは、急速に事を荒立てていく。
 そのキッカケはおそらくアレだろう。
 ミケの前から上級生の面々がやって来た。
「(オレが殴ったセンパイか。後ろからも気配がするな)」
 振り返るとやはり後ろからも獣の群れがやって来た。
 全部で二十人くらいだろうか。どんな格闘の達人であっても、この数を倒すのは現実的ではない。
 逃げるにしても、ここは狭い廊下だった。
 ミケは天井を見上げた。
「(もっと高ければあいつらのこと飛び越せるのにな)」
 次に開かれた教室のドアを見た。
 そこしかないと判断したミケは急いで教室に駆け込んだ。
 すぐに轟き声が後ろから迫ってくる。
 廊下では逃げ切れないという判断は正しかっただろう。
 しかし、こことて袋の鼠。
 ネコなのにッ!
 教室にある二つの出入り口は塞がれた。
 ミケは窓を見た。
「(二階なら平気なんだけどな。ここ三階だもんな、飛び降りたら足折りそう)」
 危険を感じた無関係の生徒たちが教室を出たり、端に寄ったりして嵐に備えた。
 一斉に襲いかかって来る男子生徒たち。
 ミケは突進して来る生徒を跳び箱のように飛んだ。
 机や椅子が倒され、瓦礫の山を築いていく。
 軽やかに机の上に飛び乗ったミケ目掛けて椅子が飛んで来た。椅子を投げたのはあのミケに殴られた阿久藤だ。
 椅子を躱そうと机を蹴り上げたとき、力が入り過ぎてバランスを崩してしまった。
「(ヤバイ!)」
 と思ったときには倒れて、脇と肋骨を椅子の背に強打していた。
 歯を食いしばりながら床に転がったミケ。
 すぐに何人もの男子が飛び乗って来た。
 山の下敷きになったミケは窒息しそうだった。
「引きずり出せ!」
 誰かが言った。
 ミケは足首を掴まれた。そのまま床を引きずられた。机や椅子に体中をぶつけたが、奴らが構うことはない。
 両腕も左右の二人によって固定され、背中に誰かが乗った次の瞬間には、顎を持ち上げられ海老反りにさせられていた。
 上に乗った阿久藤がミケの耳を引っ張った。
「ギャアアアアッ!!」
 強烈な痛みでミケはのたうち回りたかった。だが、体は身動き一つできないように押さえつけられている。
 耳が引き千切れそうだった。
 下卑た高笑いが聞こえて来る。
「この怪物野郎! キモイ耳なんかつけてんじゃねーよ、アハハハハハ!」
 ミケじゃない声がする。
「気持ち悪い耳で悪かったな、この猿どもがッ!」
 その声は?
 ドガッ、ドゴッ、ズゴン!
 次々と男性生徒が倒されていく音をミケは聞いた。
「なんだよコイツ!? コイツにも耳があるぞ!」
 そう、この場に現れたのはポチだった。
 ポチは次々と向かってくる猿どもをタコ殴りにしていく。
 気づけばミケの上に乗っている阿久藤以外、全員泡を吐きながら気絶させられていた。
 ミケは頭を後ろに大きく振り上げて阿久藤の顎に頭突きを喰らわせた。
「ガグッ!」
 怯んだ阿久藤は思わずミケの耳から手を放していた。その隙にミケは全力で立ち上がって背中から阿久藤を振り下ろした。
 阿久藤は尻餅をついて背中を床に打ち付けた。
 反抗的な緋色の瞳でミケは阿久藤を見下す。
 激昂した阿久藤がミケにタックルした。
 避けられなかったミケはそのまま椅子と一緒に押し倒され、再び阿久藤がミケの上に馬乗りになった。
「この野郎そんな眼で俺を見るなッ!」
 阿久藤の拳が何度も何度もミケの顔面を殴った。
 ポチが阿久藤の襟首を後ろから掴んで、そのまま引っ張るように投げ飛ばした。
 瓦礫の山の中につっこんだ阿久藤。
 そして、そのまま気を失った。
 この騒ぎを聞いて駆けつけたパン子が前のドアから飛び込んで来た。ほぼ同時にペン子がもう一つのドアから入って来た。
 パン子はペン子を確認するとプイっとそっぽを向いた。
 ミケは見るも無惨な姿だった。