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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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「愚息には使えんよ。なんせ我が輩と血が繋がっとらんからなッ!」
 …………。
「「ええ〜〜〜っ!!」」
 ペン子とパン子のシンフォニー。
 不思議そうな顔をしてミケは呟く。
「言ってなかったか?」
 二人はぷるぷる首を横に振った。
 パン子は過去の出来事を思い出しながら、
「ミケ様が実は皇子様みたいな話しか知りません!」
 …………。
「なぬ〜〜〜ッ!!」
 驚いたのはバロンだった。
 全員が情報を共有していないために、話がうまく噛み合わないのだ。
 ミケがポチとはじめて出会ったときに、二人の間で交わされていた会話も、ほかの者が聞いたらなんのことか理解しにいくかっただろう。そのときのことを、ミケは補足を加えながらバロンに聞かせた。
 バロンの養子であるミケは、実はどこかの星の皇子だったこと。そして、ワンコ族という犬の耳としっぽを持った宇宙人に狙われていること。ただし、ペン子とパン子がいるために〈サトリ〉の話はしなかった。
 話を聞き終えたバロンは目をカッと開いた。
「あの黒い鎧の男……たしかに犬の耳と尻尾がついておったわッ!(息子の耳を見慣れているせいで、うっかり見過ごしておった)」
 慣れとは恐ろしいものなのだ。
 バロンはおもむろに立ち上がり、身振り手振りを交えながら大げさに話しはじめた。
「あれは我が輩が妻を捜して世界中を旅していた時のことだ。その日はたまたま財布を持ち合わせておらんかったから、いつものように食い逃げをした。すると店のオヤジが鬼の形相で追いかけて来るではないか。追われた逃げる、当然の心理で我が輩は逃げた。気づけば町中――いや、世界中が我が輩を追いかけて来た」
 ツッコミどころが多すぎる。
 だが、話はツッコミなしで先に進んでしまう。
「我が輩がもう逃げ切れんと思った時、奇跡は起きたのだッ!
 空に次元と次元を繋ぐ〈ゲート〉が開き、我が輩を追いかけて来た借金取りどもが全員吸い込まれてしまったのだ。そして、替わりに赤子が降って来おった。これは天の助け、神が起こした奇跡、我が輩の腕の中にいる赤子は天使だと思うた。
 さっそくこのネコミミの赤子を見せ物にするか、サーカスか何かに売り飛ばせば金になるのは間違いない。さらにその赤子は金になりそうな指環を持っておってな、しばらくの間は生活に困らんかったわ」
 ツッコミを入れたいが、もうバロンの話は止まらない。
「しかし、買い手が見つからず我が輩は途方に暮れた。そんなことで一年、また一年と経ち、その子供に情が移ってしまったのだ。これは我が息子として育てるしかあるまいと思った。なぜなら、さらわれた妻も子供好きだったからな。この子がいれば妻も帰ってくると思ったのだ。
 そして、我が輩は妻と一緒に失踪した飼い猫と同じ名前を子供に与えた。それがミケだ。猫のミケは頭脳明晰で、人語すら介するほどだったというのに、こっちのミケは本当に手のかかる愚息だ。妻も帰って来んしどうしようもない。
 そこで我が輩は妻の面影を求めて我が息子に女装をさせたのだ。さすが我が輩と妻の子だ、妻に似て可愛い。誇りに思うぞ我が息子よ!」
 もうツッコミを入れる気すら失せた。が、バロンはまだしゃべる気だ。
「そして、我が輩は息子と共に多くの冒険をした。ある時はマグロ漁船に乗り、ある時は徳川埋蔵金を探し、ある時は……おっと腹が空いたな。そろそろ晩飯の用意をしようではないか。パン子とペン子もぜひ今夜は我が城で夕食をどうかな?」
 話が自由すぎ。
 パン子がなにやらプラスチック容器を取り出した。
「実はミケ様のためにお弁当を作ったんですけど、渡しそびれちゃって……はい召し上がれ!」
 と、出されたのはギュウギュウ詰めにされたししゃも。
 それを見たミケは大きく飛び退いた。
「オレが小魚嫌いだって知ってて嫌がらせしてんのかッ!」
 バロンは勝手にししゃもを食いはじめた。
「我が息子よ、好き嫌いはいかんぞ」
「アンタのせいで嫌いになったんだろ! 牛乳が飲めないオレにカルシウム不足がどーとかって、窒息するまで小魚を食わせやがって!」
「覚えとらんなッ!」
 キッパリ言い放ったバロン。都合良すぎ。さすがバロンだ。
 そして、気づけばししゃもは全部バロンに食われていた。
「お義父様に全部食べてもらえたなんて、ミケ様が全部食べてくれたのと同じです!」
 意味不明な理論を展開するパン子。
 ししゃもを食って満足そうな顔をするバロン。
「旨いししゃもをごちそうになっては、やはり豪勢な夕食でもてなさねばならんな。我が息子よ、この金でひとっ走り何か食材を調達してくるのだッ!」
 ジャジャーン!
 バロンが取り出したのは札束の扇だった。
 その輝く札束を見たパン子は泡を吐いて失神。
 ミケは明らかに嫌そうな眼をしている。
「どんなヤバイ金だよ?」
「賭で勝った金だ」
「(親父のことだから万馬券とかじゃなくて、もっとヤバイ賭だろうな)」
 そんなことをミケが思っている横では、ペン子が必死になってパン子を起こそうとしていた。
「山田さんだいじょうぶですか? 目を覚ましてください」
 カッとパン子の眼が開き、飢えた獣のようにバロンに飛びかかった。
「カネーッ!」
 一瞬の隙を突かれて札束がパン子に奪われた!?
 暴走したパン子はそのまま窓を飛び出し逃走してしまった。
 バロンは慌てず騒がず、
「盗まれてしまった物は仕方があるまい。パン子にもやむにやまれぬ事情があったのだろう」
 と、アッサリ。
「そーゆー問題じゃねーだろ!」
 怒ったミケは急いでパン子を追いかけて飛び出した。
 全速力で走るミケ。だが、すぐに力尽きてミケは歩くことにした。
「どこ行きやがった?」
 まったく足取りがつかめないまま住宅街へ。
 やがてミケは見覚えのある公園の横を通り過ぎようとしていた。
「(ここは?)」
 記憶に引っかかる風景。
 公園の砂場にはパン子がいた。しかも、札束を埋めて隠そうとしているところだった。
「パン子ーッ!」
 ミケはパン子に飛びかかった。
 思わずパン子は両手を広げてミケをキャッチ!
「ミケ様ーッ!」
 ガッシリ抱き合う二人。
「放さないぞパン子!」
「いやん、放さないで♪」
 どうにかミケはパン子から札束を奪い取った。
 そして、改めて公園とこの砂場を眺めた。
 パン子も同じような瞳をしていた。
「懐かしいなぁ。小さいころ、独りぼっちでこの砂場で遊んでたんだっけ(友達いなかったし)。そうそう、あのころは貧乏すぎちゃって、クツすら買ってもらえなくて……あはは」
 ミケは引っかかるものを感じたが、そのことはあえて口に出さず、
「だからって、ひとの金を盗んでいいってことにならないだろ」
 ピキーン!
 突然の気配。
「ここで会ったが百年目、今こそ決着をつけてやる!」
 ポチだった。
 しかも、今回のポチは本気だ。
「我が剣技――暗黒剣の恐ろしさを見せてやる!」
 ポチの持つ大剣が黒い炎に包まれた。こんな技持ってるならさっさと出せよ!
 轟々と燃えさかる大剣の一撃をミケは紙一重で躱した。そのときに、札束を手放してしまった。
「札束がッ!」
 ――燃えた。
 黒い炎が引火した札束は一瞬のうちに消失した。