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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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第4話「惑い合うウソとホントと妖しき男爵」


 ズンズンズンズン……
 ミケは不機嫌そうな顔で歩いていた。
「(なんか調子悪いよな。今朝見た夢のせいか?)」
 学生寮に帰ろうとしていると、ペン子が前から歩いてきた。
 目が合う二人……の間に割り込んできたポチ!
「今日こそ決着をつけてやる!」
 が、そこにさらに割り込んできたマントの男がポチを押し飛ばした。
「我が息子よ、今帰ったぞ!」
 真っ赤なジャケットにシルクハット。ミケの親父だ。
 鼻血ブーしながらポチはミケの親父に切っ先を向けた。
「貴様何者だッ!」
 ミケの親父は自信満々の笑みを浮かべ、白い歯を二カッとさせた。
「ははははっ、我が名は妖師奇(あやしき)バロン!」
 バロンはマントを払い靡かせ、
「偉大な奇術師にして愚息ミケの偉大なる父だ!」
 かなり派手な男だ。
 父の登場にミケはため息を吐いた。
「オレよりアンタのほうがよっぽど愚かだろ」
「なにを言う我が息子よ。十歳にもなって寝しょんべんをしていたのは、いったいどこの誰だッ!」
「人の恥ずかしい過去を勝手に暴露するのやめろよ」
 しかも、この話はパン子にまで聞かれていた。
「ミケ様カワイイ……(きっとひとりでトイレに行くのが怖かったのね!)」
 こんなな面々によって話が軌道修正できなくなる前に、大剣を構えたポチが吠えた!
「ちょっとおまえら、俺のことを忘れていないだろうな!」
 ええ、すっかり忘れていたともさ!
 自分のポジションを誇示するかのように、自暴自棄になりながらポチがミケに襲いかかった。
 だが、その前に立ちはだかったバロン!
「なんと愚かしき。我が輩の息子に手を出すなら、容赦はせぬぞ犬っころ!」
「ただのマジシャンになにができる!」
「手品師ではない、偉大なる奇術師と呼べ。喰らえ我が偉大なる奇術――アン・ドゥ・トロワ!」
 タコ・殴・り!
 バロンの熱い拳がポチの顔面に1、2、アッパーっと炸裂した。奇術じゃなくてただの武術だ。
 つぶれたアンパンみたいな顔をしてノックアウトしたポチ。
 ペン子がポチに手を差し伸べた。
「だいじょうぶですか?」
 返事がない。
 ミケはそっけなく、
「そんなやつほっとけよ」
 と言い放ったがペン子は心配そうな顔でポチを見ていた。
「早く元気になってくださいね」
 笑顔のペン子を見て、ポチも一瞬だけ笑みを浮かべて気を失った。
 バロンがミケに視線を向けると、その真横にはニヤニヤしているパン子。ここでバロンに戦慄が走った。
「なんと喜ばしき! 我が愚息に彼女ができたとはッ!!」
「彼女じゃねーよ!」
 顔に真っ赤にしてミケはのどがつぶれるほど叫んだ。
 だが、パン子はモーソーモードに突入していた。
「アタシってミケ様の彼女だったの?(どうしよう今まで気づかなかった、損した気分。デートにも行かなきゃ。でもデートの最中でムラムラしちゃったミケ様に襲われたらどうしよう。むしろ襲って欲しいけど。てゆかアタシから襲っちゃったほうがいいのかな?)ミケ様大好きです!」
 突然、ミケに飛びかかるパン子。
 さらりとミケは避けた。しかも話をそらそうとする。
「親父、今度はどこ行ってたんだよ?」
 ここ数日、バロンは家を空けていた。
「ふむ、金の工面をしとったのだ」
「またやばい金に手を出したんだろ? しかもその金を女に貢いだ」
「貢いだのではないぞ。目の前にいた困った女を助けたまでよ、はははっ!」
「(いつもそうやってこの馬鹿親父は騙されるんだよな。しかも騙されて清々しい顔してやがる)」
 バロンはどこからともなく棒付きキャンディを出した。一つはクルクル、もう一つはスターの形だった。
「レディがいたら優しくする。それが偉大なる奇術師の勤め。さあ、そこにいるパン子とペン子、良き出逢いの証にキャンディでもどうかね?」
 ここで補足しておくが、パン子もペン子も勝手にミケがそう呼んでいるだけだ。バロンも二人を見て同じあだ名を思い付いたのだった。ネーミングセンスが同じ。
 パン子は飢えた猛獣のようにクルクルキャンディを掻っ攫った。
「わーい、アタシこの形のキャンデー大好き!」
 このとき誰も気づいていなかったが、ペン子は一瞬だけ悲しげな表情を見せていた。けれど次の瞬間には満面の笑みを浮かべて、お辞儀をしてキャンディを受け取っていた。
「ありがとうございます」
 バロンはマントを翻した。
「では立ち話など無粋だ、我が城へ招待しよう!」

 ――と、やってきたのはミケが住んでいる学生寮だった。
「狭い城だが寛ぐがいいぞ!」
 バロンはペン子とパン子に席を勧めた。
 とりあえず絨毯に腰掛け、パン子はミケに尋ねる。
「お父様と住んでいらっしゃるんですかー?」
 ミケよりも早くバロンが答える。
「はははっ、我が息子が寂しがるのでな。一緒に住んでやっているのだ!」
 これを聞いてムッとしたミケ。
「ウソつくなよ。ほかに住む場所がないからだろ」
「はははっ、言い方の違いだな。我が輩たちには敵が多いのでな、親友のこの学園の理事長がここに住んだらどうかと勧めてくれたのだ」
「敵が多いのは親父だけだろ」
 今ではミケも変な宇宙人に付け狙われているが。ついでにパンダにも。
 パン子はバロンの話に興味津々だった。なんせ将来のお義父様(とうさま)だからだ。
「敵ってどんな敵がいるんですかー?」
「はははっ、敵はどこにでもいるぞ。飲み屋のマスターから秘密結社、魔物や宇宙人、最近は妻も我が輩の命を狙ってる気がするな!」
「奥さんがいらっしゃるんですねっ!」
「十年以上前に謎の失踪を遂げてしまったがな! おそらく敵の手に落ちて、洗脳されて我が輩の命を……なんと恐ろしき運命の悪戯!」
 話の腰をへし折るためにミケがボソッと。
「全部誇大妄想だけどな(けど本人が全部本気だと思ってるからタチが悪い)」
「我が息子よ、誇大妄想ではないぞ。我が輩は偉大なる奇術師ゆえ、常人には信じがたい出来事の数々に遭遇しているに過ぎんのだ」
「奇術っていうけどな、オレは手品もどきしか見たことないぞ」
「それは奇術とは安易に人前で披露するものではだけだ。やろうと思えば雷雲を呼び、大洪水によってこの町くらいなら流せるぞ」
 その話を聞いてペン子は本気で心配そうな顔をしていた。
「流されてしまったら困ります。きっと悲しむ人もいっぱいいるのでやらないでくださいね?」
「うむ、その通りだ。だからこそ我が輩は奇術を安易に使わんのだ」
 ホントかウソかはわからない。本人が本気でそう思っていては、ミケの〈サトリ〉では真実を知ることはできない。
 しかし、多くの人はバロンを?ほら吹き男爵?と称してる。
 だがしかし、?信じている者?――略して?信者?がここに一匹。
「さすがミケ様のお義父様。本当に偉大な奇術師なのね!」
 さらにもう一匹。
「バロンさんはほかにどんな奇術が使えるのですか?」
 興味津々で目をキラキラさせているペン子。
「ふむ、浮遊術や水の性質を変化させたり、ほかには書に念力を込めたりだな」
 どこかで聞いたことありそうな胡散臭さプンプン。
 さらに今度はパン子が質問。
「ところでやっぱりミケ様も奇術が使えるんですか?」