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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ぺんにゃん♪

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記憶のカケラ「裸足の少女」


 まばゆい光によって目が霞む。
 霧が徐々に晴れるように浮かび上がる風景。
 幼い手を包み込む大きな手のひら。
 手をつないだ先を見上げると、大柄な男がいつもと変わらぬ、自信に満ちあふれた笑みを浮かべていた。
 情熱の色をした真っ赤なジャケットにマントを羽織り、おまけに頭にはシルクハット。片手に持ったステッキを、まるでバトンのように回しながら歩いている。
 オレの親父だった。
 今よりも若い親父の姿。
 この世界はいったいなんなんだろう?
 小さな公園の横を通り過ぎようとしたとき、オレの足は不意に止まった。
 楽しそうに遊ぶ子供たちの姿。
「よいぞ、自由に遊んでくるがよい我が息子よ」
 親父に背中を押されたが、オレはその場を動かなかった。
 不思議そうに親父はオレの視線の先を見つめた。
 そう、オレは目を奪われていた。
 楽しそうな空間の中に、そこだけぽつんと穴が開いたようだった。
 ――そこには独りの幼い?少女?がいた。
 その?少女?は公園の砂場で遊んでいた。
 遊び道具はなにひとつ持たず、汚らしいところどころ破れた服を着て、裸足の?少女?は指の間を零れ落ちる砂とただ戯れていた。
 同年代の子供の輪に積極的に入ろうと思わない。
 けど、そのときはなぜか体が動いてたんだ。
 オレは?少女?の前に立っていた。
 ?少女?は温かい笑顔でオレを見つめた。
 優しくて温かい……でも、なぜかオレはその笑顔を見て、とても哀しい気分になった気がする。
 親父はまるで魔法のような手つきで、棒付きのクルクルキャンディを出すと、?少女?の前に差し出した。
 ?少女?は明らかに戸惑ったようすだった。手を伸ばしかけるが、すぐに悪いことでもしたように手を引っ込めてしまう。
「うまいから食えよ」
 オレはそうぶっきらぼうに言って、無理矢理?少女?の手にキャンディを握らせた。
 はじめのうちはキャンディを握ったまま、それをじーっと見つめていた?少女?だったが、やがて小さな口を開いた。
「ありがとう」
 凍えるように震えた声だった。
 けど、キャンディを一口舐めた?少女?は、まるで雪解けの春が訪れたように、ほがらかな微笑みを浮かべた。
 その日から、オレと?少女?は仲良くなった。
 いつも二人で……二人だけで遊んでいた。
 遊ぶ場所はいつも砂場。砂場の枠の中だけがオレたちの世界だった。
 ある日、いつものように遊んでいると、周りの子供たちよりも少し体の大きなガキ大将っぽいヤツが、オレたちの世界に入ってきた。
 ガキ大将は?少女?の作っていた未完成の砂の城を、何度も何度も踏みつぶして壊してしまった。
「砂場から出てけよ、いつもおまえたちばっかりここで遊んでんなよ!」
 たしかに、今までこうならなかったの不思議なくらいだ。
 オレには他人を寄せ付けたくないという気持ちがあったが、はじめから誰もこの砂場には近づいてこなかった。
 時折、公園に来ていた大人たち。蔑むような眼でオレたちを見ていたような気がする。そして、オレはそいつらの心の声を聴いたような気がする。
 ……忘れてしまった。
 でもきっと、わざと近づかないようにしてたんだ。オレのせいだろうか?
 違うかもしれない。
 はじめから?少女?は独りだった。
 だからオレは……?少女?を……どうしても……。
 気づいたときにはオレの拳がガキ大将の鼻にめり込んでいた。
 ぶっ倒れたガキ大将が鼻血を流しながら大泣きしている。
 それでもまだ殴りかかろうとしていた。
 けど、オレの前には哀しげな?少女?が立っていた。
 ?少女?は何度も何度もガキ大将に謝ったような気がする。
 そして、オレの手を引いて公園から逃げ出した。
 あの日から、?少女?は公園に姿を見せなくなってしまった。
 オレが?少女?の居場所を壊してしまったのだろうか?
 数日経った雨の日、また親父とあの公園の横を通り過ぎようとした。
 雨の音だけが聞こえてくる寂しい公園。
 でもそこに?少女?はいたんだ。
 土砂降りの雨の中、傘も差さずに、砂場で独り遊ぶ?少女?。
 オレは無我夢中で自分の傘を投げ出して、?少女?のもとへ駆け寄った。
 ?少女?はこんな寒い雨の中で、温かな笑みを浮かべてオレを出迎えたんだ。
 そのあとのことはよく覚えてない。
 あのとき、?少女?から大切なプレゼントを受け取った。
 金色に輝く大きな鈴。
 あやふやな世界。
 頭に残り続ける激しい雨の音。
 それからいつものように、親父の都合で町から出た。
 ?少女?にちゃんと別れを告げたのだろうか?
 よく思い出せないのに、なぜかそのことを考えると、心が苦しくて死にそうになる。