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からっ風と、繭の郷の子守唄 126話~130話

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 「なに!。美和子が、君のマンションから消えたって、いったい何故!」

 「ごめんなさい。
 これで解決したと思い、油断していた私がいけないの。
 出産する日までは私のマンションで同居するとばかり、思い込んでいた
 私がいけないの。
 予定日まであと2ヶ月。
 あとは自力でなんとかしますからと、短い手紙を残して、
 美和子が出て行った。
 覚悟の上でマンションを出たのよ、きっと。
 あなたへの伝言はありません。
 驚いて、びっくりして、気がついたら貴方が居るここまで夢中で
 飛んできました。
 どうしょう、康平。
 この先ですべてがうまくいくと思っていたのに、美和子が消えちゃったのよ。
 足元からガラガラ、全部、崩れちゃったような気がするわ」

 「君のせいじゃない。
 自分の意思で自ら決めたことだ。
 美和子が姿を現すまで、黙って見守るしかないだろう」

 「呑気ですねぇ、康平は。
 行方の分からない人間を、一体どうやって見守るつもりなの?。
 一番の問題は、いつも煮え切らない態度ばかりとっている康平自身でしょ!。
 まさかあなたは、本気で千尋と付き合うつもりじゃないでしょうね。
 英太郎くんが植えている桑の苗は、全部、千尋のためのものなのよ。
 あなたが桑を育てようと考えているのなら、それは、
 もうひとりの女のためのものでしょ。
 美和子だって、糸をひいてきた人間のひとり。
 美和子のために桑を育てるのならわかるけど、添えない相手のために、
 なんで桑なんか育てているのさ。
 いい加減で目をさましたらどうなのさ。この唐変木。
 もういい。頭にきた!。私がなんとか解決します。
 さっさと私の車から降りてちょうだい!」

 怒りをあらわにした貞園が、いきなりエンジンをかける。
シートベルトをしめたあと、震えている指先が、カーナビの操作する。

 「おい。いったい何処へ行くつもりだ。
 いきなりカーナビの設定なんか始めたりして・・・」

 「安中市よ。
 行き先は、千尋のアトリエに決まっているじゃないの。
 あの女が康平にちょっかいを出すから、話がこじれて面倒になる。
 こうなったら女同士の、全面戦争だ。
 あの女が元恋人の英太郎を選ぶか、康平を選ぶのか、そいつを
 はっきりさせてやる。
 私がもつれた糸の交通整理をしてくる。
 優柔不断の康平は、とっとと、わたしの車から降りてちょうだい!
 今日の私は悪魔と天使の2役を演じわける、魔性の女なんだから!」

 貞園がアクセルをふかした瞬間。真っ赤なBMWが地面をけたたましく蹴る。
高台から麓へ続く下り坂を、かつて誰も見たこともないような猛スピードで、
貞園の真っ赤なBMWが駆け下りていく。