小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

からっ風と、繭の郷の子守唄 126話~130話

INDEX|6ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 鍬を手にした徳次郎と英太郎が、畑の真ん中で呆気にとられている。
2人をしり目に、康平が貞園のもとへ降りていく。

 「おはよう、貞園。
 ここへ来るのは始めてだろう?。
 田舎道を迷わず、よく無事に来れたねぇ」


 「高台に、御神木のようにそびえている桑の大木が目印だと、
 美和子から聞きました。
 確かにこの木は、遠くからでもよく見えます。
 わかりやすい道案内になりました」

 「ここは赤城山麓の、最初の高台だからね。
 それにしても、こんな朝早くからいったい何の用だい。
 まさかこの御神木を見るために、早起きしたというわけでもあるまい?」


 「いい話と、悪い話が、ひとつずつあります」


 「朝早く来たということ自体、どちらの話にも重大な意味が有りそうだ。
 ということは、簡単に済まないということか・・・・どうする?。
 ここで立ち話するか、それとも君の車の中で話を聞くか、
 それとも俺の家に寄るか?。
 3択だ。どれでもいいから、好きなものを選択しろ」


 「もちろん、康平のお家。
 お母様に『はじめまして』と、ご挨拶したいわ。
 『ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします』ってご挨拶するの。
 義理の母にそれを言うのが、長年の夢なのよ。
 実家への初めてのご挨拶。痺れるような極度の緊張が楽しめます!」


 「お袋が飛び上がって驚くぜ。腰を抜かすかもしれん。
 少しもどると畑の中に、車一台がやっと通れる街道がある。
 それが俺んちの入口だ。
 先に行ってくれ。相方と徳次郎老人に断ってから、俺も戻る」


 「いいの?、本当に。嫁ですがと、勝手にご挨拶してしまっても!」


 「今頃はたぶん居間でコタツに入っている。
 のんびりお茶でも飲んでいる時間だ。
 死なない程度に。お袋に刺激を与えてくれ。
 おふくろの奴。俺には女ができないとタカをくくっている。
 君みたいな美人が、突然飛び込んでいったら、きっとびっくりするだろう」


 『ふふ、楽しみです』貞園がスキップをしながら、運転席へ戻っていく。
Uターンするかと思いきや、いきなりバックギヤーへシフトを放り込む。
アクセルを全開にしたまま、猛烈な勢いで、BMWが高台の坂道を
後退していく。
あっけにとられたまま康平が、BMWの背走を見送る。
砂塵が激しく舞い上がる中。あっという間に貞園の車が、街道の入口まで
到達する。

 貞園が、今度は前進にギヤーを放り込む。
激しくタイヤをきしませたBMWが、砂利道へ突入していく。
ふたたび、激しい砂塵が巻き起こる。
狭い庭で鳴る、けたたましいブレーキーの音が、畑のここまで響いてくる。

 「見かけはすこぶるの美人どしたが、中身は途方もない
 ジャジャ馬のようどすなぁ。
 活きの良さが、半端じゃおまへん。
 あの子はいったい、どこの何者どすか?」

 「台湾から10年前に上陸した、根っからの暴走娘だ。
 なにか急用が発生したようだから、家に戻って用件を聞いてくる」

 「何じゃ、今のじゃじゃ馬は。あれでは寝た子を起こしかねん。
 知らんぞ、わしは。GT-Rの千佳が目を覚ましたら、またこのあたりが
 いっぺんに騒がしくなってしまうわい」


 「GT-Rの千佳?。何ですかそれ。
 もしかして、おふくろのことですか?」


 「GT-Rの千佳といえば、このあたりでは有名な『走り屋』じゃ。
 お前さんが、2輪の赤城山最速のタイムを持っているように、
 千佳子は30年前のスカイラインGT-Rで、4輪の最速タイムを叩き出した。
 筋金いりの女暴走族じゃ。
 わしは知らんぞ、千佳の悪い血が騒ぎ始めても。
 なんだか今日は朝から、悪いことばかりが起こりそうな日じゃのう・・・・」

 徳次郎老人の心配が的中する。
その数分後。、真っ赤なBMWがふたたび街道から出てくる。
運転席には、目をらんらんと輝かせた千佳子がいる。
助手席で貞園がシートベルトを嬉しそうに締めはじめている・・・・

 「康平よ。どうやら不安が的中したようじゃのう。
 女暴走族2人の出陣じゃ・・・
 今朝はなんだか、赤城の山が騒がしくなりそうだ・・・
 くわばら、くわばら」

 唖然とした顔で徳次郎老人が、2人が乗った赤いBMWを見送る。