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からっ風と、繭の郷の子守唄 126話~130話

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 「で。これで、桑の苗木が植わっている、5反の畑を
 耕そうというのですか・・・
 まったく木の遠くなるような話だな・・・」


 「バカモン。百姓とは常にそういうものじゃ。
 つべこべ言わず動き始めてしまえば、それだけ早く終わりがやってくる。
 今時の若い連中は、そんな簡単な理屈もわからんと見える。
 手と足にたっぷりとマメができてこそ、真の百姓というもんじゃ。
 あっはっは」


 「康平はん。どうやら、諦めが肝心のようどすな。
 そこまで言われたら、引き下がる訳にはいきません。
 じゃあ、やりますか。
 徳次郎はん、なんか、コツのようなものがありますか?」


 「耕し方には、コツがある。
 まずは大きく荒く耕すことじゃ。間違っても細かく砕いたりしてはいかんぞ。
 鍬を上から大きく打ち込む。
 そのまま土の上下をひっくり返してやればいい。
 大きすぎる場合は、土の塊りを適当に砕く。
 見た目が、ゴロゴロとしているような感じが上等だ。
 掘りあげていくと、ときどき、土の中からこんなやつも出てくる」


 ほらよっと言って、徳次郎が土の中から、冬眠中の幼虫をつまんでみせる。
クワガタかカブトムシと思われる幼虫だ。


 「こいつらは、丸くなって冬眠している。触っても全く動かん。
 土をひっくり返すことで、虫や細菌を殺すという算段も含まれておる。
 だからひっくり返した畝は、このまま放置をする。 
 霜が降りたり、土が凍ったりすることで、作物に害をおよぼす虫の卵や、
 細菌どもは死んじまう。
 大きな土塊のまま砕かないのは、空気の流通をよくするためだ。
 大風が吹くと、空気が動く。
 そうすると土は、更に冷えることになる。大昔から農家が
 やってきたことだ。、
 冬のあいだに土を鍛える。そのための方法が畝起こしじゃ。
 凍ったり溶けたりを繰り返すことで、土も自然に砕けて、柔らかくなる。
 どうじゃ。なかなかに大したもんだろう。
 ただ耕すだけで、春のための新しい土が生まれてくる。
 寒いからなどとサボっておらず、必死になって耕すだけ耕しておいた方が、
 きっと、あとあとのためなる。」


 「あとあとのため?。・・・・
 ご老人。なにか別の使い道でもありそうな、そんな口ぶりですが?」


 「おう。その通りじゃ。
 春になったらお前の母の千佳が、ここへホウレンソウを植えたいそうじゃ。
 桑畑に作られた畝を利用する。
 昔からそんな風にして、春物や夏野菜を育ててきた。
 幸いなことにこの近所の畑で、来年からは、農薬を一切使わなく
 なるそうじゃ。
 蚕用の桑畑ともなれば、そのくらいの協力が必要となる。
 無農薬で有機の土壌なら、安心で安全な野菜がいくらでも育つ。
 お前さんたちがここへ桑畑を完成させる前に、千佳の無農薬の野菜が
 先に育つ。
 それもまた一興だ。
 来春はなんだか、面白くなりそうじゃのう」

 「徳次郎はん。
 桑の木が育って蚕に食べさせるまで、どのくらいの時間がかかりますか?」


 「春になったら定植する。
 無事に根が付けば、それから2年後には一人前の桑の木に育つじゃろう。
 3年目の春が来れば、ここは一面の桑畑にかわる。
 楽しみじゃのう。たかが3年後じゃ。されど3年後の話じゃ。
 そんなことよりも、さぁ、さぁ畝起こしじゃ、畝起こし!。
 畑の土も鍛えられるが、お前さんたちの心身も、見違えるほどに
 鍛えられるだろう。
 さてわしは、家に戻り、ばあさんとお茶でも飲むかのう。
 いっひっひ」