からっ風と、繭の郷の子守唄 126話~130話
「ふふふ。貞ちゃんのほうが、よほどショックで重症どすなぁ。
どうするん?。振られそうな女と、これから振られる女とで気晴らしに
どこぞへ出かけましょうか。
この件に関して、もう手も足も出ません。
銃撃犯を確保して、国外逃亡させようという荒業にいどみはじめた時から、
こうなるだろうと、ちゃんと見えとったはずどす。
でもそのおかげで貞ちゃんは、持病の過呼吸症をコントロールする術を
見つけました。
あたしも近いうち、英太郎と話し合う心つもりです。
それぞれの運命が、それぞれの道に沿って、正しく流れ始めたと
いうことかしら。
そやけど8ヶ月の身重やというのに、美和子はどこへ消えたんやろ。
大丈夫とは思うけど、出産が近いんだもの。やっぱり、
ちょい心配どすなぁ・・・・」
「敵を気遣うその気持ち。
やっぱり、いちど恋に破れている女は思慮が深いですねぇ」
「褒めても何も出ませんよ」
「温かいシチューだけで充分です。美味しいですねぇ、このシチュー。
・・・・。ねえ、冬の軽井沢へ行こうか。
雪が降って、人の姿が見えない冬の別荘地もまた素敵です。
雪景色の浅間山も雄大です。
雄大な雪景色を見ながら入る、天然温泉もまた今の季節なら格別です。
浅間山から4.9kmの距離にある、天狗温泉の浅間山荘。
ランプの宿の高峰温泉なら浅間山から、わずか5.8km。
星野温泉のトンボの湯は、浅間山から7.7km。
群馬県側にあるホテルグリーンプラザ軽井沢は、浅間山から7.7km。
もうひとつ。群馬県吾妻郡長野原町にある、相生の湯は浅間山から9.5km。
浅間山から10km圏内に、これほどたくさんの温泉地がひしめいているのよ。
最高だとは思わない?」
「ちょい待って、貞ちゃん。
あんた、もしかしたら、そのあたりに美和子が行っとるのを
知っとったんでしょ
美和子を見つけるために、あたしを誘いに来たわけ?。
いや、待て待て。全部あんたが仕組んだ筋書きでしょ。
ただの狂言でしょ。そう考えれば全部のつじつまが合います。
いっぺんにすべてを片付けるため、貞ちゃんが仕掛けた大博打のような
気配がします。
美和子の姿を隠しておく。康平くんの動揺を誘う。
そしてその気になるように仕向ける。
あたしには、きっちり引導を渡す。そして英太郎と復縁するように
促す・・・・
なるほど。あんたも相当なワルですね。
それとも極道の岡本氏の入れ知恵かしら。
なるほど。うちまで、まんまと、見事に乗せられるトコどした」
「見ぬかれたか、やっぱり。
3人で、2~3日、温泉につかってのんびりしましょう。
岡本氏から、そのくらいの軍資金をご褒美としてせしめてきました。
女同士もいいでしょう。
妊娠8ヶ月~10ヶ月のことを、妊娠後期の安定期と言うそうです。
妊娠生活に体も心も慣れてきて、最後の自由が謳歌できる時期に入る
そうです。
赤ちゃんと会えるまであと少し。
自分ひとりで自由に動ける時間も、残りはあと少し。
『出産後にできくなることを、いまのうちにやっておかなくちゃ』
と最近の美和子は、ひしひしと感じていたそうです」
「呆れたわねぇ・・・・あんたたち。
出産間近の妊婦さんの最後の自由を謳歌するついでに、
狂言まで仕立てたわけどすか。
可哀想どすなぁ。巻き添えを食った康平はんは。ついでにウチも・・・・」
「そう言わないで。
春物のゴルフウェアを犠牲にして、みんなのために手にいれた軍資金なのよ。
でも、戦略的には一石二鳥でしょ。
あっ、みんなで温泉へ行けるのだから、三鳥です。
康平にこのことはナイショです。ばれたら私が、一生恨まれてしまうもの。
うっふっふ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 126話~130話 作家名:落合順平