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からっ風と、繭の郷の子守唄 126話~130話

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 湯気の向こう側で、貞園が目を細めて笑っている。
『おかわりしておくない。久しぶりにたくはん作りましたし』
千尋も笑顔を返す。

 「腹が減っては戦(いくさ)にならぬ、と昔からよく言われています。
 身重の美和子が、突然姿を隠したいきさつはよう分かりました。
 けどその件と、わざわざここまで貞ちゃんが足を運んだのには、また別の
 意味あいも有るんでしょう?」

 「あら。なんでそんな風に思うわけ?。 あなたは」

 「今朝の電話の様子です。
 恋敵と決闘でもしそうなほど、あとに引かない迫力などが有りました。
 あたしへ引導をわたすため、朝早くから、はるばる安中まで
 やってくるんだと、脳裏にピンと来ました」


 「その通りです。
 私はあなたへ、憎まれ口を言うためにここまで飛んできました」


 「朝ごはんも食べず、早朝から赤城山の康平くんのところへ駆けつける。
 そのまま安中に住んでいる私の所まで飛んでくる。
 どう考えても、ただ事とは思いません。
 康平くんと別れてくれと言うつもりなんでしょ。あなたは?」
 
 「実に鋭い。怖いわねぇ。自分を知っている女は・・・・」


 「それしかないでしょう。心当たりが有るとするなら。
 でも、今すぐに、とても無理な話どすなぁ。
 人を好きになるまいと心に決めて、私はこの群馬へやって来た。
 英太郎と、別れたくて別れてきたわけではおまへん。
 女が女としての大切な『機能』を失えば、諦めなければならへんことも
 あります。
 恋も男も諦めて、仕事一筋に生きるはずどした。
 そやけど、また転んでしまいました・・・・
 康平くんと出会ったことで、恋する気持ちに火がついてしまいました。
 あかんなぁと思っていても、何処かで密かに、楽しんどる自分さえいます。
 『いけへん』とブレーキをかけとるのに、気持ちは深みへ
 ドンドン落ちていきます。
 貞ちゃんだって、そないな女の気持ちはわかってくれるでしょう?。
 時間をかけて、ちゃんと自分でキリをつけます。
 そやからあんたはもう、心配せいへんで。
 でも、貞ちゃん。あんたこそ、ほんまにそれでええねんか?
 今度こそほんまに、あんたの手に届かない人になってしまいますえ。
 康平くんは」


 「ものの見事に肯定されてしまうと、拍子が抜けてしまいます。
 貴方と康平が付き合いはじめて、半年余り。
 いまなら浅い傷で済むと思います。
 そこへ行くと私は、もう、どうにもならずのまま10年余り。
 そうよねぇ、今度こそ私にとって、本当の正念場です。
 まいったなぁ・・・・」