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BOOK~白紙の魔道書~ 第一話「新年度1」

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自分の突進力とハルトの腕力が合わさり、ランスは後ろへと飛んだ。

「ぐあ!!」

(やべ、あれは骨逝ったか?)

予感的中、ハルトの掌底はランスの肋骨をへし折ったのだった。

掌底を受けたランスの体は床に打ち付けられながら道場の壁に当たるまで転がり続けた、それでもなおランスの意識は飛ばずうめき声を上げながらも立ち上がろうとしていた。

それは意地かプライドか、それともそのどちらともなのか、ともあれランスは驚異的にも立ち上がり目の前の敵、ハルトを睨みここからだと言わんばかりに竹刀を構えた。

(あれ食らって立つか、さすがトップクラスの部長といったところか……)

その時、ハルトには見えていた、ランスの背中に背負われた執念が。

ハルトはランスの身を案じると同時に一撃で沈めなかったことに対して後悔していた、そうハルトは直撃の瞬間に力を抜いたのだった。

それをその場にいた全員がわかっていた、けれどそれは完全なるハルトの自己責任、真剣勝負の場において手を抜くという行為は相手に対する侮辱でしかない。

その証拠にランスの執念の半分以上はそのことに対する怒りで構築されている。

「……貴…様ぁぁ!!!手を抜いたことを後悔させてやるぞ!!」

絞り出したような声で怒りをあらわにするランス、その執念にハルトは恐怖に近い何かを感じていた。

仕掛けたのはランスからだった、先ほどとはまるで違う足運び、そして気迫で突っ込んでくるランスに対してハルトはそれでも尚冷静さを失わずに迎撃の行動をとる。

ランスは示現流の構え、一撃必殺の剣技、けれどそれを当てるのは恐ろしい程の速度と気迫、さらに状況判断能力が必要となる、けれど剣道の試合でそんなことをしている暇はない、そのためランスはある魔術を使用する、それは……。

「拘束術式敵脚部限定(アンダーレストバインド)!!」

(やはり来たか……)

ハルトはその術をすんでのところで躱したが、しかしそれも全てランスの計算だった。

「かかったな……喰らえ!!」

ランスの術を回避したハルトだったが、その時すでにランスはハルトの回避した地点に向け剣を振り下ろしていた。

これが、ランス必勝の戦法だった、術式詠唱がない拘束術式を脚部だけに展開させ、回避されたとしても回避した地点を足さばきを見て推測、剣を叩き込む。

ランスは勝利を確信したが、それすらもすでにハルトの術中だった、なぜならハルトは戦う前からすでにランスの戦法を調べ上げ、対策を練っていたのだった。

ハルトは回避した地点に足を着けた瞬間にもう一度ステップ、ランスの剣を完全に避け、ランスの側面に着地した。

「なぁっ!?」

完全に回避されたランスはすぐに体勢を立て直して無理やり振り下ろした竹刀を横になぎ払った。

それを見たハルトはニヤリと笑い、「計算通りだ」と冷たい声で呟いた。

薙ぎ払われた竹刀がハルト体を捉えるまで僅かに数秒もない、その時間の中でハルトは竹刀を破壊し、さらにランスを沈めると言う荒業をやってのけたのだった。

決着はまさに瞬く間についた、結果としてランスの竹刀は破壊され、ハルトの全力の攻撃でランスはその場に糸が切れた人形のように倒れたのだった。

ハルト自身の体感時間は周りから見ているものの時間とはまるで違うものだったのだろう、その額には汗が流れていた。

その勝負の一部始終を見ていたカノンはハルトに近づき。

「この馬鹿者!!」

そう一喝しビンタを一発食らわした。

乾いた音が道場の中に響いた、それはカノンがハルトの頬にビンタした音だった。

突然のことに驚くハルト、けれどすぐにビンタの理由を理解した。

「やっぱり怒るよね……」

ハルトが俯き気味にそういった途端にカノンの追撃、グーパンチがハルトの頬に直撃する、ハルトはまったく避ける様子もなく、ただその攻撃を黙って受けた。

「なぜか、理由は聞かないんだね」

「そうだね、理由はわかってるからね」

「なぜ、真剣勝負を挑んできた相手に手を抜いたの?それがなにを意味するか、まさか分からないなんてことはないわよね」

怒りを含みながらも冷たい声でカノンはハルトに問い詰める、ハルトはなにも答えずにうつむいたままだった。

その態度をみたカノンはさらに怒り、ついにはハルトに対し腰のホルスターに持っていた銃を抜いた。

「なぜ、手を抜いたのかちゃんとした理由を言わなければ貴方を撃ちます」

そう言われ、ハルトは重くなった口をようやく開いた。

「正直、この人と俺では実力の差があったし、それにあまり強くすると殺してしまうと思ったんだ」

ハルトが言うようにランスとハルトでは実力の差が歴然なのだ、故にハルトは“殺さないよう”に手を抜いた。

けれどそれが結果的にランスのプライドに傷を付け、さらにカノンを怒らせてしまったのだ。

大であれ小であれ、ハルトはこの短時間に二つのミスを犯したのだ。

一つは真剣勝負の場において手を抜いたこと、それと死ぬ気の相手に対し、殺さない手心を加えたこと。

それは、戦うものにとっての最大の屈辱、ハルトはそれを知っていた、知ってなおそれをしてしまったのだ。

「私の時もそうだ、君はいつも本気をださない……いつだってそうだ!!」

ハルトは一度カノンに舞踏で勝利している、それも一度も本気を出さずに。

カノンはそれを敗北してからの期間ずっと恨んでいた、それもそのはずだ、彼女は武闘派のレイワイズ家の次期当主候補の一人、その彼女が無名の学生に手を抜かれて敗北したなどと知れればどうなることか。

それ以降、カノンはハルトと共に行動し、彼のことを調べていた、どこの生まれで、どこで育ち、どこに帰るのか、その全てを調べようとしていた。

けれど、全てはわからなかった、生まれたのは学園都市のある大陸の端の港町、ただ、生家の情報がわからなかったのだ。

まるで霧を掴むように、調べようとすると遠くに霞んでいく、そんな情報だったのだった。

「本気をださないんじゃないよ、本気を出すことを禁じられているんだ」

それは、衝撃としか言えない発言だった、確かに魔道書という才能があれば鍛錬という努力を怠っていてもランカーになれる学園だが。

それを抜いても“本気を出せない”というのは異常なことだ。

そんな状態でハルトは学園のトップ、ランカーに入りそして生徒会に参加しているのだ。

それがどう言う事かカノンは知っていた、そうそれがどれほど狂気じみた行為なのか。

「あなた、何を言ってるのかわかっているの?」

「いや、これが家の決まりだから……」

家の決まり、それはこの世界の子供たちにとって絶対的なもの、法律のようなものだ。

それは基本的に子供が魔道書を暴走させ、自身も暴走させないための決まり。

それが本気を出してはいけないというのは一体どういうことなのか。

そんな問答が数分続いたときだ、ランスが意識を取り戻した。

「う、う~ん…俺は一体?」

ランスの目にはその前に立っているハルトの姿があった、そこでランスは自分が負けたのだと自覚したのだ。

「そうか俺は負けたのか……それも手を抜かれて!!」