マージナル・マン
まなみ「あきら......」
みずき「おい、なんかあったのか?」
まなみ「何かあったって言うか......。」
り ほ「更年期?」
まなみ「りほ......!」
かなこ「ジュース。折角りほが買ってきてくれたんだし飲もうよ。」
り ほ「今なら冷え冷えだしね。」
みずき「買って来たの、俺......」
り ほ「あきらはどっちがいい?」
あきら「......紅茶。」
全員ペットボトルの飲み物を飲む
全 員「......」
みずき「......どこまで宿題終わった。」
まなみ「取り敢えず、3分の2は。」
二 人「はや!?」
り ほ「何々、まなみも去年まではこっち側だったのに。」
みずき「何真面目ぶってんだよ。」
まなみ「進学するつもりなんだから、いつまでも子どものままじゃいられないでしょ。」
二 人「何それ、どういうこと。」
まなみ「それが分からないんじゃ、二人は大人になれないな。」
二 人「えー。」
かなこ「みずきは何が終わってるの?」
みずき「......」
あきら「黙秘権なし。」
みずき「数学が、一問。」
全 員「一問!?」
あきら「今日の時間何してたの!?」
みずき「英語と戦ってた。」
あきら「ばか?」
みずき「今さらだろ。」
かなこ「りほは?」
り ほ「古典は終わったよ。あと、現代文。あ、あと英語も少し!」
かなこ「みずきよりはましか。」
あきら「そんなんで大丈夫なの?」
二 人「大丈夫って?」
あきら「夏休み中に終わるのかってこと。」
かなこ「ただでさえ、二人は勉強苦手なんだし......ね、まなみ。」
まなみ「そうだね。いいの、二人ともこの調子じゃ......」
二 人「何?」
まなみ「旅行、行けなくなっちゃうんじゃない?」
り ほ「え!それはやだ!」
みずき「それもやだけど、宿題はもっとやだ。」
あきら「話してるうちにも進められるでしょ。休憩終り。」
二 人「えー!?」
かなこ「二人のためなんだから、文句言わない。」
まなみ「ほら、さっさとやっちゃうよ。」
り ほ「もう少し......」
三 人「だめ。」
り ほ「はい。」
全員着席する
り ほ「なんで夏休みに宿題あるの。」
あきら「それ、さっきも言ってなかった?」
り ほ「だって......」
かなこ「りほ、進学するんでしょ?」
り ほ「うん。」
かなこ「じゃあ勉強しなきゃ。進学するために必要なのは学力だよ。」
あきら「夏休み明けにはテストもあるしね。」
かなこ「宿題やっとけば大体の点数は取れるんだし。」
あきら「ほら、頑張るよ。」
みずき「じゃあ、俺はしなくても良いよな。」
まなみ「みずきー。」
みずき「だって、俺就職だし。勉強しなくて良いじゃん?」
まなみ「就職試験とかあるでしょ。」
みずき「......え。」
まなみ「まさか、それすら知らなかったとか?」
みずき「............」
まなみ「これじゃあ、みずきママが心配するのも無理ないよ。」
みずき「さっきから、まなみはどっちの味方なんだよ。」
まなみ「......え?」
みずき「『心配する大人の気持ちも分からなくはない』とか、『大人が反対するの無理もない』とか、最近そればっかりじゃん。」
まなみ「......何が言いたいの。」
みずき「つまり、お前は大人の味方ばっかりして、俺ら子どもには反対してる......」
まなみ「それは違うよ。」
みずき「へー、違うんだー。どう違うか説明してみろよ。」
かなこ「みずき、やめなよ。」
みずき「そーえば、かなこも大人よりの考えだったよなー。」
まなみ「みずき!」
みずき「......もう、何でもよくなったわ。」
かなこ「反対、されてない訳ないでしょ。」
まなみ「かなこ?」
かなこ「みずき、反対されてるの自分だけみたいに思ってるでしょ。それ、違うから。」
みずき「は。」
かなこ「わたしだって親に反対されたことあるわよ。勿論それはわたしに限った事じゃ無くて、あきらも、まなみも、りほも。反対されない子どもなんていないわよ。」
あきら「......大人ってさ、自分勝手なくせに、わたし達には自由にさせてくれないよね。」
り ほ「確かに。」
かなこ「どうしてやりたいって言ったらだめなんだろう。」
あきら「ほんとよね。やりたいって言う事の何がいけないんだか。」
みずき「だめなわけないだろ。」
二 人「え?」
みずき「俺、反対されてるけど、やりたいって、就職したいって気持ちは変わってないし。むしろ反対されてやる気出たっていうか......」
り ほ「みずきって、Mだったの?」
みずき「ちげーよ。」
あきら「けど、最終的な権力持ってるのは大人でしょ。所詮高校生のわたし達だけじゃ、結局何も出来ないのは事実でしょ?」
みずき「そんなの、説得しちゃえば......」
あきら「どうにかなるって。」
みずき「うん。」
あきら「じゃあ、みずきはお母さんをすぐ説得できるの?」
みずき「......やってみなきゃ分かんねぇ。」
あきら「何の根拠で?」
みずき「それは............」
あきら「ないでしょ?いくら頑張るって言っても限界はあるわよ。」
まなみ「あ、でもりほは先生説得できちゃったよね。」
り ほ「うん。」
あきら「りほは例外。」
り ほ「わたしだって反対されたことあるもん!」
まなみ「それでもりほは説得できちゃうんでしょ?」
り ほ「今回ばかりは敵は大きかった。」
かなこ「どういうこと?」
り ほ「お父さんにね、旅行行っちゃ駄目だって言われちゃったんだ。」
全 員「え!?」
みずき「お前が主催なのにどうすんだよ。」
り ほ「どうにかなるでしょ。」
みずき「他人事の様な口ぶりだな。」
り ほ「いざって時は適当に口裏合わせて行けばいいしさ。」
かなこ「それは賛成しかねるな。」
あきら「何で。別に良くない?わたしだって親にまだ旅行の事いってないし。」
みずき「俺もまだ言ってないけど、多分母ちゃんの事だし、いいって言うだろ。」
かなこ「喧嘩中なのに?」
みずき「喧嘩じゃねえし。」
まなみ「確かに、子どもだけの旅行だし、そう簡単に許してくれるわけないもんね。」
かなこ「やっぱり行くの辞めようか。」
三 人「なんで!?」
かなこ「何かあったときにわたし達だけじゃ対処しきれないし。ね、まなみ。」
まなみ「そうだね。まあ、わたし元から行かないつもりだったけど。」
三 人「え!?」
り ほ「なんでよなんでよー。行こうよまなみー。」
まなみ「親に嘘ついてまで旅行に行く必要ある。」
り ほ「ある!」
まなみ「何のために?」
り ほ「思い出づくり......?」
まなみ「大人になってかでも良いんじゃない?」
り ほ「それじゃあ遅いんだよ。」
あきら「遅い?」
り ほ「だって、ほら、来年からわたし達受験生になっちゃうでしょ。そしたら、この五人で何か出来るのも今年まででしょ?」
まなみ「だから、大人になってからでも......」
り ほ「大人になったらこうやって簡単に会えなくなっちゃうじゃん。」
かなこ「確かにね。お母さん達も言ってた。大人になると高校時代の友達とかに中々会えなくなるって。」