マージナル・マン
まなみ「......わたしも、特になんもなかったかな。」
みずき「まなみも進学組だったっけ?」
まなみ「うん。一応ね。」
みずき「一応?」
まなみ「そう。ほら、うち妹(きょう)弟(だい)多いし、お母さん大変そうだから就職も考えてたんだけど......。」
かなこ「だけど?」
まなみ「みずきの話聞いたら、うちはどうかなって。」
り ほ「大丈夫だよ。まなみ確り者だし、ね?」
かなこ「確り者だろうが何だろうが反対されるときはされるよ。」
り ほ「なんでそんな事言うの。」
かなこ「だって、......ほら、心配なものは心配だし。親だもん。子どもの心配するのは当たり前で......」
り ほ「そうかもしれないけど。親って子どもを応援するものじゃないの。」
かなこ「そうとは限らないじゃん。」
り ほ「......かなこ?」
まなみ「二人とも!私のために争わないで!」
二 人「え?」
まなみ「え?」
かなこ「別に争ってないけど、ね、りほ。」
り ほ「うん、争っては無いね。」
まなみ「あ、あれ?」
あきら「そうえば、かなこのそういう話聞かないよね。」
かなこ「そういう?」
あきら「進路でもめたーとか。」
みずき「それこそ親ともめた話とか聞かないよな。」
全 員「確かに。」
り ほ「反抗期ちゃんと来てますー?」
かなこ「きてますー。ただ、親とはあんまり話さないって言うか......迷惑かけたくないっていうか。」
り ほ「何言ってんの。親なんて迷惑かけてなんぼでしょ。」
みずき「そうそう。親父とかも姉ちゃんの我儘嬉しそうに受け入れてたし。」
あきら「そもそも親は迷惑なんて思わないんじゃない?ね、まなみ。」
まなみ「わたしは、どっちかと言うとかなこ寄りの考えかな。」
三 人「なんで!?」
まなみ「親の大変な所とか見てると、これ以上大変な思いさせられないなって思っちゃうんだよね。」
かなこ「そうそう。だから、なるべくいい大学に行って、いい企業に入って......」
り ほ「なんて親孝行な!」
あきら「同級生とは思えないな。」
みずき「でもそんなんじゃつまらなくね?」
かなこ「親に迷惑かけたくないって思うどこが悪いの?当たり前じゃない?」
みずき「そんなのおかしいよ。」
かなこ「何がおかしいのよ。親が大変そうなの間近で見ててそう思わない方がおかしいわよ。」
みずき「なんだよそれ、それじゃあまるで俺が親の大変なとこ見てないみたいじゃないか!」
り ほ「もう、二人ともやめようよ。平和に平和に、ね?」
まなみ「考え方は人それぞれだもん。どっちがおかしいとか無いよ。」
二 人「......。」
あきら「そもそもさ、大人の意見に振り回せるこの状況がおかしいんじゃない?」
全 員「え?」
あきら「だってそうじゃん。さっきからどの話も親がどうのって。そればっかり。」
り ほ「確かにね。そういうあきらも先生のこと気にしてるしね。」
まなみ「りほ、それは......」
あきら「いいよ、まなみ。そうだよ、わたしも大人の目を気にする子どもの1人だよ。」
全 員「......。」
みずき「あー、俺なんか喉乾いてきちゃったなー。ジュース買いに行ってくる。」
り ほ「わたしも行く。」
まなみ「あ、うん。いってらっしゃい。」
りほ、みずき退場
ドア開閉音CI
三 人「......。」
まなみ「ねえ、あきら、他になんか言い方あったんじゃない?」
あきら「言い方?」
まなみ「先生に言われてイライラするのも分かるけどさ、あんな言い方は......」
あきら「あーあ、なんかやる気なくなっちゃったな。」
かなこ「わたしも。」
まなみ「......なんか空気重いね、窓開けよっか。」
まなみ、かなこ窓を開ける
まなみ「ねえ、あきら、大人の目を気にするのはいけない事なのかな。」
あきら「さあね。」
まなみ「じゃあさ、大人の目を気にする事がいけないと思うのは何でかな。」
あきら「それは......」
鳥丸登場
ドア開閉音CI
三 人「こんにちは。」
鳥 丸「珍しい、勉強してるの。」
かなこ「課題を終わらせようって集まってやってるとこです。」
鳥 丸「あら、伊藤さん。感心ね。でも、勉強するのはいいけど、誰がこの教室を使っていいって言ったかしら。」
かなこ「一応許可は取ってますけど。」
鳥 丸「誰に。」
かなこ「有川先生に。」
鳥 丸「いつ。」
かなこ「今日の午前中......この教室使う前です。」
鳥 丸「そうだったの。でも、一応ここは私が担任をしてるクラスだから、わたしに許可を通さないと。」
かなこ「すみません。有川先生がいいっておっしゃったので使ってしまいました。」
鳥 丸「そう。別に使っていいとは思うんだけどね。」
かなこ「次から気を付けます。」
鳥 丸「そうしてくれると助かるわ。一応有川先生にも確認取ってこようかしら。」
かなこ「わたしも行きます。」
かなこ、鳥丸退場
ドア開閉音CI
あきら「やっとうるさいのがいなくなった。」
まなみ「あきら、やめなよ。聞こえたらどうすんの。」
あきら「聞こえるように言ってるんだけど。」
まなみ「あきら......」
あきら「大体さ、あのおばさんしつこいんだよ。許可取ってるって言ってんのに。許可取って無いなら普通使えないっての。どんだけ生徒を信用してないんだか。」
まなみ「先生もびっくりしちゃっただけなんだよ。」
あきら「びっくり?......ああ、わたし達が珍しく勉強してるから?」
まなみ「あきら......!」
あきら「............」
みずき、りほ登場
ドア開閉音CI
みずき「ただいま。あれ、二人だけ?」
り ほ「かなこは?」
まなみ「おかえり。先生のとこ。」
り ほ「なんで。」
まなみ「さっき鳥丸先生が来て、許可がどうのこうのって。」
みずき「拉致されたのか!?」
まなみ「違うよ、確認に行っただけ。」
り ほ「みんなの分も買ってきたよ。」
まなみ「わー、ありがとう。」
みずき「ありがたく受け取れよ。」
あきら「ありがとう、りほ。」
まなみ「りほ、ありがとう。」
り ほ「どういたしまして。」
みずき「えー......」
かなこ登場
ドア開閉音CI
全 員「おかえり。」
まなみ「大丈夫だった?」
かなこ「あーうん、なんとか。有川先生の連絡ミスだったらしい。」
みずき「連絡ミス?」
かなこ「うん、先生同士の連携がうまく取れてなかったみたいで。」
あきら「何それ。それってわたし達側のミスじゃないじゃん。」
り ほ「大人の事情ってやつ?」
あきら「大人の事情って言うか、むしろこれは完全にあっち側のミス。」
り ほ「理不尽だね。」
みずき「お前、それ意味分かって言ってんのか?」
まなみ「みずきもね。」
かなこ「まあ、誤解は解けたんだし。結果オーライでしょ。」
あきら「かなこはそれでいいの?」
かなこ「え?」
あきら「大人の勝手な都合で責任被せられてさ。何とも思わないの?」
かなこ「思わない事は無いけど。」
まなみ「あきら、イライラするのは分かるけど人に当たるのはよそう?」
あきら「当たってなんか無い。」