小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヒトサシユビの森 1.オヤユビ

INDEX|5ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 


来る日も来る日も、かざねはさちやの帰りを待ち続けた。
自力で自宅まで帰ってくるかもしれない。
もしかして万一これが誘拐案件であれば、自宅に犯人から電話がかかってくるかもしれない。
二つの理由で、かざねはさちやの失踪当日から、雪乃とふたり、自宅にいわゆる「缶詰」にされていた。
固定電話機には逆探知装置が据えられ、技術系の職員ひとりと刑事1名が溝端宅に張り付いた。
6日目の昼、NHKのニュースが終わってチャンネルを変えると、民放のワイドショーがこの失踪事件を取り上げていた。
その番組のコメンテーターの発言に、かざねは凍りついた。
”なんらかの理由でさちやくんを殺してしまい川に捨てたが、その事実を受け入れることができず、赤信号だとか工事中だとかの妄想を作りあげ、それが事実だと信じるようになった・・・”
”さちやくんは誰の子かわからないそうじゃありませんか。ふしだらな母親だから、こういう事件を起こしたんでしょう”
それらの発言に呼応するように他の出演者たちも、何か喋ったが、かざねの耳に入らなかった。雪乃が腹を立てながらリモコンを操作していた。慌てていたのか、音量が最小になっただけだった。
テレビの画面が笹良川の流域に切り替わった。
番組の司会者が緊張の面持ちで、原稿を読み上げたがテレビは無音。
笹良川河岸の一点のカメラがズームアップされた。
川面にせりだした木の枝に衣服が垂れ下がっていた。
かざねに見覚えのあるジャケットだった。
かざねは雪乃からリモコンを奪い、テレビの音量をあげた。
”・・・現場から約1キロ下流の笹良川河岸で、溝端さちやくんのものと思われるカーキ色のジャケットを発見されました。警察の発表によりますと、ジャケットとジャケットが発見された場所付近の岩場に、相当量の血痕が残っていた、ということです・・・”
「さちや・・・」
呟いたのは、雪乃だった。
雪乃がかざねのほうを向いたときには、かざねはもう玄関に向かって小走りしていた。
表に飛び出す勢いのかざねを、宅詰めの若い刑事が阻んだ。
「外出できません、溝端さん」
「さちやは生きてる、さちやを探すの」
かざねは刑事の制止を振り切ろうと前のめりだった。
「落ち着いてください、溝端さん」
「さちやは、私が守る。さちやは私が守るの」
若い刑事は取り乱すかざねの行く手を体を張って阻止した。
そのとき、インターホンの呼び出しベルがけたたましく鳴り、同時に玄関の引き戸が乱暴に開けられた。
目つきの鋭いトレンチコートを羽織った男を先頭に、数人の男たちが玄関先に押しかけた。
一瞬我に帰ったかざねに、トレンチコートの男が野太い声で言った。
「溝端かざねさんですね。警察まで同行願おう」