からっ風と、繭の郷の子守唄 121話~125話
「おやじからだ。姉ちゃんはこの先どうするって、聞いている。
俺たちはこのまま桐生へ行く。
希望を聞いて、降りたい場所が有ればそこで下ろせと、オヤジが言っている。
どうする?。希望の場所が有れば、そこまで送っていくが・・・」
「私も、桐生まで行く」
貞園が即座に応える。
「姉ちゃんも、このまま桐生まで行くそうです。
病気を抱えているから気をつけろ?。へっ、なんですか、
どう言う意味ですか組長。
姉ちゃんは見るからに健康そうだし、病気には見えませんが・・・・
え?、余計なことは聞くんじゃない?。
へい。へい。あ、よくわかりました。そういうことなら充分に気をつけます。
まもなく市外へ出ますので、30分くらいで桐生へ着くと思います。
はい。了解しました」
『おい、ちょっと止めろ。後部座席へ移る』
電話を切った助手席の男が、運転中の長身の男へ指示を出す。
ベンツが路肩へ停車する。
後部座席のドアを開けると、貞園からペンシルライトを受け取る。
『ひでえな・・・・』べっとり血で濡れている腹部を確認する。
ペンシルライトを消した男が、座席の足元を物色する。
『非常用の毛布だ。掛けておけ、いくらかは温かくなるだろう』
足元から毛布を取り出す。
『止血しょうにも出血が酷すぎる。腹部へ直撃したようだ。
助かるかなぁ・・・・』
ふたたびペンライトを点灯した男が、厚手のタオルを取り、
実行犯の腹部へ押し当てる。
「お前さん。過呼吸症を持っているんだって。
極度の緊張や、ションキングな光景を見るだけで、
過呼吸の引き金になるそうだ。
毛布をかぶって、横にしていろ。けが人の面倒は俺が見る。
と言っても、とてもじゃねぇが、素人に手が出せるレベルじゃねぇ。
血を停めるために、タオルできつく抑えるしか方法がねぇな」
「助かりそう?。死なないよね・・・・」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 121話~125話 作家名:落合順平