からっ風と、繭の郷の子守唄 121話~125話
たてつづけに激しい閃光が走る。
爆音とともに紙の破片が四方八方へ飛び散る。
『あばよっ』激しくドアが閉められる。室内がまた密室に変わる。
投げ込まれた大量の爆竹が、真っ暗闇の中を乱舞する。
護衛の男たちも、これには勝てない。
悔しそうに唇をかんだまま、耳を塞ぎ、嵐が過ぎ去るのを待ちつづける。
君来夜の前に、黒いベンツが停まっている。
エンジンはかかったままだ。
長身の青年によって救出された貞園が、荷物のように後部座席へ投げ込まれる。
貞園には、自分の足で歩いた記憶がまったくない。
負傷していた実行犯は、もうひとりの相棒によって、こちらも無事に
救出された。
貞園が放り込まれた後部座席へ、反対側から強引に押し込められる。
そのまま走り去るかと思いきや、長身の青年がさらに大量の爆竹を手にする。
もう一度、君来夜へ引き返す。
ドアを開け、大量の爆竹へ火を点ける。次から次へ店内に向かって投げ込む。
ふたたび激しい閃光と、爆竹の音がけたたましく店内で炸裂する。
もうひとりの相棒が、思い切りドアを閉める。
それだけではない。
大きな石を積んだフォークリフトが、いつの間にかドアの横に用意してある
こちらもエンジンがかかったままだ。
爆竹を投げ込んだ男が、フォークリストに飛び乗る。
そのままドアへ突進させる。
ぐさりと音を立て、フォークリストの爪がドアに突き刺さる。
フォークから飛び降りた男が、ベンツの助手席へ飛び込んできた瞬間。
長身の男が渾身の力で、アクセルペダルを踏み込む。
もうひとり表に、見張り役のやくざがいたはずだがと、貞園が
入り口のあたりを振りかえる。
植え込みの中に、見張り役と思える男の足が見える。
まさに問答無用の一撃で思い切り、叩き飛ばされた状況を物語っている。
「後方に追撃してくる様子はあるか?。
万一に備えて連中は、車の中に、別のボディガードを残しておく場合もある。
念の為、その先で街角を適当に2つ3つ曲がっていく。
同じ方向へついてくる車があれば、間違いなくそいつは俺たちを
追いかけてくる敵の車両だ。
お姉ちゃん。しっかりそれを確認してくれ。
できるだろう、それくらいのことは」
長身の青年が、貞園へ指示を出す。
猛烈なダッシュで店の前を飛び出したベンツだが、意外なことにその後は、
ゆったりと法定速度を守って走る。
裏通りから、本通りへ出る。
車の流れに乗りながら、2度3度と適当な右折と左折を繰り返す。
「着いてくる車はありません。誰かが追って来るような気配も感じません。
それにしても。全速力で逃げるのかと思ったら、安全運転で
右折と左折を繰り返すなんて
いったいどういう神経をしているの?。
さっさと逃げなきゃ、捕まっちゃうじゃないの?」
「これだから素人は困る。
一般道を猛烈に飛ばしてみろ。あっというまに目立つだろう。
怪しさがまる出しだ。
逃走車両ここに有りを、自白しているようなもんだ。
追撃の車両さえなかったら、ゆっくり走ったほうが安全なんだ。
派手な逃走劇は、映画とテレビの世界の中だけさ。
それにしてもお前さんは、よく頑張った。見直したぜ、怪我はなかったか?」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 121話~125話 作家名:落合順平