それから (それからの続きの・・・の続きの・・続き)
それから(21) 最後はホントー2
(俺が、此処に来た時は、いつもこんなだね・・ 仕事を辞めちまった時、そして、今日は、辞めたくもないのに辞めなきゃならないかも・・)
ばあちゃんの墓の草むしりをしながら、俺は、ばあちゃんと話す。
(俺の何処が、いけないのかなぁ・・ って、分かってるんだけどね。)
何だか分からないけれど、気が付けば誰かの為にと、張らなくても好い意地を張っている。
本当に好きな人に好きと言えずイジイジとしている。
そのくせ、とても好い人なんだけど、一緒になれば、どんなに我慢を重ねても、いずれは壊れるだろうという相手の為に必死だ。
まあ、これが、俺なんだけど、本当に訳の分からない性格だよな・・。
そんな事をとめどなく繰り返し言ううちに、墓の周りは、綺麗になっていた。
(また来るよ。当分は、フィリピンになんか行けないし・・)
と、墓の前にコロッケを残し、よっちゃんのオヤジさんちを訪ねる。
「また、来たのか。」
「うん、この前は、ゆっくり出来なかったけど、今回は、2~3日骨休めするつもりだから。」
と、オヤジさんの家に泊めて貰う事にした。
「仕事は・・?」
「うん、まあ、何とかやってるよ。」
そんなとりとめのない話をした後、俺は、早々に布団に潜り込んだ。
翌日、よっちゃんが、一緒に遊ぼうと言うので、
「子供の頃、よく行った川で、魚でも獲ろうか?」
というと、彼は、何時もオヤジさんと出掛ける仕事を休んだ。
「さんちゃん、もうフナは、居ないぞ。その代わりハヤが、いっぱいだ。」
「そう?」
「うん、ハヤは、とても速く泳ぐんだぞ。だから、俺、獲りたくても獲れないんだ。困ったなぁ・・」
「大丈夫。俺が、上流から追って行くから、よっちゃんは、下の方の草むらに籠を受けて待ってなよ。」
遥か下流から、よっちゃんは、忍び足で川を上り、そして、静かに籠を草むらに沈める。
小さな声で、よっちゃんが、
「もう好いぞ、さんちゃん・・」
と、声を掛ける。
俺は、ザブンザブンと大袈裟に水を蹴りながら、川下に走る。
驚いてよっちゃんの待つ方にハヤは逃げるが、その大部分は、よっちゃんが沈めた籠を掻い潜り、随分と川下にまで行き姿を消した。
だが、何匹かのハヤが、籠に入っていた。
「ウワァ~、やったぞ、さんちゃん! 獲った、獲った・・。やっぱり、俺とさんちゃんは、兄弟みたいだからな。だから、上手くやれたんだぞ。な・・? そうだろ?」
「うん、お兄ちゃんの籠の受け方が、良かったからだな。そうだろ? よっちゃん・・」
「・・俺、さんちゃんの兄貴なのか? 今まで、さんちゃんが、兄貴だと思っていたんだぞ・・、違うのか・・?」
「よっちゃんが、兄貴に決まってるだろ。だって、俺より5年も早く生まれたんだから。」
「そうか・・、じゃあ、それで好いんだな。・・おい、弟のさんちゃん、このハヤを一緒に食べようよ。刺身にすれば、美味しいかなぁ・・」
「・・・それも好いけど、可哀そうだから逃がしてあげようよ。」
「そうか? ・・でも、せっかく獲ったばかりなのになぁ。残念だなぁ・・」
「よっちゃん、このハヤは、俺達より弱いから、獲れたんだよ。強いハヤたちは、ずっと向こうに逃げちまった。弱い者いじめは、駄目だとおもうけど・・」
「・・・そうだな。おい、ハヤ、逃がしてやる。だから、逃げろ・・・」
と、よっちゃんは、籠を逆さまにして、獲ったばかりのハヤを逃がした。
そして、
「そういえば、さんちゃん。俺が、バカ、バカとみんなに虐められてる時に、よく助けてくれたなぁ・・。『コラッ!』と言いながら飛んで来て、拳骨で助けてくれてありがとう・・」
「兄弟を助けるのは、当たり前だろ?」
「ああ、そうか・・ そうだよな、弟のさんちゃん。でも、拳骨、痛くないか?」
「もう、子どもの頃の話・・・」
「そうか・・、痛くないか?」
「痛くなんかない。」
「それは、好かったなぁ・・」
「・・よっちゃん、相撲を取ろうか・・」
「此処でか?」
「うん。」
「・・いやだ、止めた。」
「どうして?」
「だって、さんちゃん、強いんだから・・」
「大丈夫だよ。負けてあげるよ。」
「そうか? ほんとうか? じゃあ、相撲を取ろう。」
俺が、水の中にバシャッと音を立てて転ぶと、
「さんちゃん、もういっちょう、揉んでやる。」
と、構えるよっちゃん。
「おっ、兄貴、すごいなぁ。揉んでやるとか言うんだものな・・」
「そうか? 俺、すごいのか?」
「ああ、凄いさ。」
その夜、よっちゃんは、上機嫌で川遊びをオヤジさんに報告し、満足そうに、たちまちのうちに寝てしまった。
その翌日、ばあちゃんにもう一度手を合わせて、広島に帰った。
家に帰った俺は、色々面倒だからと思い、机の上に放りっぱなしだった携帯をチェックした。
数十件の着信がある。が、その全てを削除。
そして、まだそんなに遅い時間ではなかったので、大家の婆さんに土産を届けた。すると、
「さんばん、あんた、何処へ行っとったんね? 会社の専務さん(現社長)が、訪ねて来ちゃったで。」
と言う。
「ああ、そうですか・・」
とだけ返事を返し、俺は、すぐに専務に電話をした。彼が、
「電話では、ちょっと・・」
と言うので、姐さんの店で会う事にして、俺は、姐さんに買った土産を持って外出した。
姐さんの店で、専務は、相変わらずの柔らかい表情で、
「とうとうやったのう(ついに遣ったなぁ)。」
と。
「はぁ・・、色々、ご心配を・・」
専務は、
「実はな、わし、社長に相談されたんよ、ABの件・・というか、さんばん、お前の事をのう。」
と、ゆっくりと話し始める。
俺が、会社を休んで2日目、事務所の雰囲気を見て賢治は、おそらく俺が、AB建設の件で社長と口論になり、会社を辞めるつもりで休み始めたと考えた。そして、社長と専務、Jさんの3人の話の端々を聞き、社長が、俺を解雇するのは時間の問題だと結論を出した。
彼は、俺に続いて、○○を辞めるつもりであると、篤志とN、そして、篤志の親友の良和に話した。
急な話に驚いて、理由を聞きたがる3人に、賢治は、自分の得た情報と大部分の想像を交えて話した。それを聞いた篤志は、彼も辞意をはっきりと言う。
ただ、Nと良和は、俺の解雇を取り消し、AB建設の存続を助ける様に、もう一度社長、もしくは専務に話してみてはどうかと、別の考えを・・
二人の話を聞いた賢治は、
「あの社長が、一旦決めた事を撤回する筈がない。」
と言い残して、その場を去った。
篤志は、二人に・・、特に良和に引き止められて、取り敢えず、3人で社長か専務に、事の次第を聞こうと事務所に入った。
其処で、3人は、社長と鉢合わせする格好になり、気の短さでは有名な篤志は、
(どうせ辞める会社の社長じゃ。この際、言いたい放題じゃべりまくっておさらばじゃ。)
と、
「どうして、さんばんさんが、クビにならにゃいけんのですか!」
と、のっけから喧嘩腰。
社長は、
「何の話じゃ?」
と・・。
その社長の表情で、
(あれ? 何か、賢治さんの話とは、違う・・のでは?)
と、3人。
事情を薄々察したオヤジさんは、
作品名:それから (それからの続きの・・・の続きの・・続き) 作家名:荏田みつぎ