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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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それから (それからの続きの・・・の続きの・・続き)

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「・・すぐにでも、お見舞いに行かなきゃならないのですが、どうしても抜けられなくて・・」
また、嘘だ。嘘に嘘を重ねるって、こういう事なんだ・・
「賢治くんから聞いたよ、最近のさんばんくんの事・・。あんまり無理は、いけんよ。」
「はい。・・仕事の事ですが、取り敢えず今の現場、続けて貰えますね?」
俺は、今回の仕事だけは、絶対に工期を守り、図面通りに仕上げて欲しい事、そして、途中、変更せざるを得ない部分が有る場合、小さな変更でも、必ず○○の担当者の同意を得た後工事に掛かる様に、くどいほど念を押した。
これは、現場経験の少ない俺のやり方。
工事を任されて、如何にそれを上手くやったとしても、其処には、自然に経験というものが現れる。経験豊かな人の手に依れば、何の苦もなく出来る事を、頭でっかちは、兎角苦労する場合がある。そんな処に、何故、時間を掛けるの? とか・・
俺は、初めての部分とか、取り掛かって見ると思っていたより頭を悩ます部分は、必ず、指示を仰いだり、前以って教えを請うて取り掛かる様にしていた。
それが、10年遅れてこの業界に入った俺に取って、一日でも早く、他のみんなと肩を並べられる事になると思ったから。

幸いな(?)事に、AB建設が、今、請け負っている現場の壁(へき)は、当初の予定よりも大きな工事となる筈だ。普通、この様な場合、施主さんと話をして、合意を得れば、元請けには、
『建築許可を貰える程度に、やや補強しますよ。』
程度の連絡・報告で、図面を引き直して工事を続けても好い場合が殆どだ。
だが、今回に限っては、事情が違う。
俺は、AB建設という小さな会社に、このまま存在し続けて欲しかった。
だが、おそらく社長不在となる会社に対して、オヤジさんが、下す決断は、この工事の完成を、ABとの縁の切れ目とする公算が大である。

(企業の大小に関わらず、それぞれが、その分を弁えてさえいれば、何とか生き延びて行ける筈。
そんな甘い考えが有っても、好いのではないか・・?)

翌日も、その翌日も、俺は、それまでと変わりなく現場に出た。
オヤジさんにも、ABに関しては、吾、関せずの体。
だが、容子さんが、俺の忠告を忠実に守ってくれさえすれば・・

容子さんは、彼女の父親が倒れて2日後に、古株のDさんと共に○○を訪れた。
その場で、現場の進捗状況を話し、続いて工事変更の必要を話した。
「施主さんと話して、新しい図面を引いて頂けませんか?」
というDさん。
「そうなりゃ、工事が、止まるで。」
と、オヤジさん。
だが、容子さんとDさんは、最後の仕事になるかも知れない現場で、いい加減なものを残したくないと・・。
「赤字になるで・・、工事が止まっとる間に、新しい現場も任せられんし・・」
「構いませんから・・ うちの事情で、ご迷惑を掛けます。」
二人は、オヤジさんに頭を下げた。

数日後、オヤジさんが、俺を呼んだ。
「お前、ABの現場に口出しをしとるんか?」
「いや、特には・・」
「そうか・・ じゃが、ABの娘さんと古株が来て・・、お前のやり方そっくりの事を頼んで帰ったで。」
「そうですか・・」
「・・なかなか遣るのう、お前も・・」
「・・」
「で、どうするんじゃ、お前? うちを辞めてABへ戻るんか?」
「それは、オヤジさん次第です。俺にこの仕事の面白さを教えてくれたのは、ABです。我儘な言い方ですが、俺は、その恩のある会社を無くしたくない・・ それだけです。」
「じゃが、あそこの社長は、もう・・」
「だけど、社長は、殆ど現場に顔を出していませんでしたし・・」
「・・」
「容子さんを社長に・・、どうですか?」
「・・まだ、40前じゃろう・・、それに事務しか経験が無い者に、現場が出来るんか? テレビドラマの世界じゃないんで。」
「Dさんが、居ます。それに、最近みんな、かなり好い感じで纏まって来ているとか。」
「わしに、指図をするんか・・?」
「そんな気は、ありません。ひとつの意見です。」
「ひとつしか無い、意見じゃろうが・・?」
「はい、まあ・・」
「・・・」
「・・」
「この若造が・・」
「・・」
「まあ、ひとつの意見として聞いとくわ。」
「はい・・、で、俺は、どうすれば好いですか?」
「・・暫く休め。」
「はい。色々ご迷惑を・・」
「・・このバカが・・・」
俺は、頭を下げて、事務所を出た。

ちょいと、多恵の顔が、見たくなったな・・
そして、電話。
「どうしたの、こんな時間に?」
「うん・・、ばあちゃんの処に行って来る・・」
「そう・・」
「だから、夕食、一緒に食べよう。」
「だからって・・、話が、続かないでしょ。」
「・・だな」

・・・・・・・

「俺、今の会社、辞めるかも・・」
「そうなの?」
「うん・・」
「それで、どうするの?」
「分からないけど・・、元の会社に戻るかも・・」
「元の・・って、同じ業種じゃないの。」
「同じだけど、違う。」
「何よ、それ・・」
「何だか分からないけど・・」
「まあ、さんちゃんは、さんちゃんだからね、何処で何をしてても。」
「俺は、俺だけど・・・、俺じゃない かも・・」
「また禅問答?」
「人生は、禅問答。」
「取り敢えず、行って来なさいよ、お墓参り・・」
「だな・・」