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癒して、紅

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 トオルは、下調べはしたものの初めて来る遠距離の場所。カーナビは重要な相棒だった。玲來を乗せて走るにしても エスコートしたいと思う気持ちがある。その検索は、仕事以上に楽しい時間だった。

 待ち合わせ付近まできたのだろうか。運転しながら周りを見ることが多くなった。
送信しあった小さな画像。他人ではないが、実物との差があるかもしれない情報でひとりの人を探すのは、面白いゲームのようでトオルの気持ちを高ぶらせた。
 脳裏に浮かぶ画像を確認するかのように スマホの画像を開いた。
「このまま素通りして帰るとするか」悪戯なことまで頭に浮かんだ。

 道の端あたりに 長めの髪を斜めに垂らしバッグの中を覗いている女性がいた。髪を掻き上げるように頭をあげたその横顔は、今確かめた面影と重なった。
「あ、いた」
車寄せのできる場所での待ち合わせ。シートベルトの金具を外しながら ゆっくり車を寄せて停車した。エンジンを止め、ドアを開ける。その女性の口元がコマ送りのように微笑んでいった。
 トオルは、その女性の前に立つと両腕を広げた。
「まじ?」玲來は、驚きと喜びにやや目を大きくしてそういうと唇を結んだ。
「はじめまして」
トオルは、玲來の肩に手をかけると、「約束だろ?」と促すように肩をひいた。
「はじめまして」
玲來は、肩からバッグの紐が落ちたのも直さず、トオルの腰に触れた。
「ハグは、こう!」トオルは、玲來の手を掴むとしっかりと自分の腰に絡ませた。
「はい…」玲來はしっくりとおさまったトオルの胸元にオデコを付けた。
「レイちゃん、案外小さいんだ」
「レイ? あ、そっか」
トオルの胸元から離れて、玲來は、トオルを見た。
「わたしのこと、なんて思ってる?」
「名前? レイ…ラ?」トオルは、答えた。
「うん。それでもいいけど、そんな洋風じゃないの。…アキラ」
「アキラぁ!? いつから? 知らなかったぁ…」
トオルの思わず出た大きな声に 玲來はしぃーっと指を立てて困り顔で笑った。

 トオルは、玲來を車に乗るようにと手を引いた。
「おじゃましまぁす」
トオルがドアを開けた助手席に乗った。トオルも運転席に乗り込んだ。
「乗っちゃった」
「乗せちゃったぁ。会えたね」
トオルは、エンジンをかけ、その場を離れた。

作品名:癒して、紅 作家名:甜茶