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癒して、紅

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 走り始めた道は、街を抜けると山手の方へと向かう。カーナビが音声ガイドを始めた。
玲來は、何か声をかけなくては、と言葉を探していた。
「あの、長距離の運転でお疲れじゃないですか?」
「大丈夫だよ。なに、急にかしこまっちゃって。あ、そうそう名前」
「いつも文字だから 読み方なんて意識してないですよね。登録はアキラなんです」
「アキラって読んでいたら、男かと思うよね?」
「そうですね。SNSとか、こういうの初めてだったから どちらかわからないのもいいかなぁってハンドルネームにしてみたんです。でもふり仮名なかったですね」
「てっきり 玲(レイ)に旧字体?変わった來(ライ)の字でレイラかレイクだと思った」
「すみません。ご期待通りでなくて。玲だけでアキラって読めるらしいですけど、付けてみました。あのぉトオルさんは本名じゃないですよね?」
「もちろん! まあ名前は何でもいいじゃない。仲良くなった名前だし」
「そうですね。わたしのことはアキラでもレイラでも トオルさんのいいほうでどうぞ」
玲來は、トオルの穏やかな運転に少し膝の力を抜くことができた。
「レイさん、アキさん、レイちゃん、アキちゃん、アキラ… ん、今、秋だし、アキちゃんって呼ぶわ。僕には さん付けしなくていいから」
「えぇ、でも年上だし、初対面だから」
「そういうの気にするんだ。それにいまさら初対面って、あんな話もした仲なのに」
「あれは、そのぉ」
「嘘なの!?」
玲來は、トオルの言葉の勢いに口から出かかった言葉が抑えられた。
このまま「嘘よ」と言ってしまえば、終わりになってしまう。「嘘じゃない」と言えば、何度も妄想した情景が現実になりそうで戸惑った。(答えなくちゃ…)
「えっと、会った印象は違うかもしれないし…」
「あれ?期待してる?さんを付けるかって話だよ」
玲來は、普段の文字のトオルそのままのやり取りが嬉しかった。
「何処へ行くんですか?」
「訊く?ホテル! ははは、会ったばかりで苛めちゃ悪いね。少しドライブしようか」
「はい」

作品名:癒して、紅 作家名:甜茶