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癒して、紅

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 始まりは、サイト内のメッセージ箱だった。
言葉が、公でなく個人へとなれば、受け取った相手も意識のレベルは一気に上昇する。まして、その送り主の言葉や文章の一端にでも 憧憬の気持ちがあれば なおさらのこと。
男のメッセージに 女は自分の保守の垣根を乗り越えた。
いや、女の身に付いた癖のようなものなのかもしれない。そうすることが、気持ちいい安らぎと高揚を体感できるのである。

 男にとっては、自己紹介のような軽いものだった。メッセージ箱にしたのは、そのコミュニケーションサイト外の事、ブログなどの個人ページへの招待状だからだ。

女の反応を どこかよそ事に構え、数日過ぎた日。
男は、見知らぬアドレスからのアクセスに気付いた。思い浮かぶ相手とアドレスからの謎解き、内心まだ確信が持てないまま返事をした。

『もしかして玲來さん?』  
『はじめまして』
『はじめまして。来てくれたんだ』

 こうして始まった言葉のやりとりは、以外にも男の予想から外れていった。それは、男にとっては良い方向といえるものだった。
女が 普段SNSの投稿で見せる言葉よりも裏のほうが 広いと直感したのだ。
 まだ多くの会員が気付いていない女の本質を知ったことは、興味の宝箱に原石を投げ込まれたようだった。
眺めまわし、削り、磨けば、どんな色を放つのだろう。扱い方しだいで 簡単に欠けたり 壊れたりするかもしれない。
 ネットという土壌でいうなら、女が、安全な糸の上を歩くか? それとも男の液の絡みつく糸に足を踏み入れるか? はたまた、男の張った網の上で待ち構える女郎蜘蛛に変貌するかもしれない。 

 男の妄想に彩られた期待は膨らみ始めた。飛び込んできた女に対しての不安などない。来るもの拒まず、男の約束事のままに受け入れた。
 女は、どこか浸っている。書く言葉にその表情が見えるようだった。言葉のやりとりにのめり込んだかと思えば、あっさりと退いていく。男にとっては、それも興味が湧いた。
 言葉の受け取り違いも時にはあるが、必ずしもすれ違いとは限らない。瓢箪から駒の如く、思わぬ情報が手に入いるのも 文字言葉の面白い駆け引きだ。

作品名:癒して、紅 作家名:甜茶