癒して、紅
序章
デジタル化の社会は、自分を知っている他人を 日々増加させている。
顔と基本実名を表面化させて、あらゆる網に現れる。
蜘蛛の糸のように 便宜に渡っていける糸もあれば、足にねばねばと絡みつき、身動きすら抑制されて、雁字搦めに陥ることにもなりかねない。
昨今の常識というほどに位置付けられたSNSはその手軽さで 個人の網も幾重にも広げているようだ。
実名を明かすことなく、言葉を撒き散らす中の真実かもしれない欠片に惹かれて、より濃厚な言葉を通わせるようになったふたりは、相手への思い込みともいえるイメージと弾みで明かした顔写真や少し踏み入った情報で さらに思いを深めていくのだろうか。
そして。
そのコミュニケーションで知り合った男と女がいた。
交際を斡旋することを目的としていないものでも その要素は充分にある。
もちろんサイト利用の規約には、異性交際などの禁止など制約があるものだが どこまで? なにが? といった詳細は、サイト管理者の基準が優先される為か、大人の常識範囲内では、咎められる失態は少ないのかもしれない。
男は、個人的に相手の言葉を受け取るに至ったことは 必然的な結果だと思った。