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癒して、紅

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 しかし、男は、幾ら時が過ぎても軽妙洒脱(けいみょうしゃだつ)な返事や曖昧な返事ばかりの言葉に飽きてきた。それならば、と男は言葉を送った。

『今度、会おうか?』

どこまでが 本心かもわからないような台詞もサラリと言葉に変えれば、デジタル郵便が数秒もかからずに 相手に届ける。親切にも相手の既読までが瞬時にわかる。

届いたとわかる。
読んでくれたとわかる。
――さぁキミはどうなんだ? 
いつ相手の言葉が戻って来るだろうかと ひんやりとした液晶画面を熱く見つめる。
何度経験しても気持ちがぐっと上がってくるのを 胸の中に感じた。

『ね。いつか会えるといいね』

こういうコミュニケーションを愉しむ人の言葉は、どこか八方美人を思わせる。


 八方美人とは、もともとは 心の中に潜む負の部分を 表面にあからさまにしないが為のお洒落? にせ物? 心身に纏う紗のようなものではないだろうか?
本心が言えない。
自己防衛のために 他人の言葉に頷き、微笑む。
貧乏くじをひいても ぐっと溜めこんで自己消化液で溶かして流していく。
場を壊さない程度の明るさと 押し負けないだけの知識を手にして、人との繋がりにはいっていくのだ。
 しかし、人の解釈というものは、時代や環境によって変化、変換されるものだ。
人づきあいがじょうずな人も この表現が似合う。本来、その類の人を称する言葉ではないかとさえ思われている。


 男をがっかりさせ続けた言葉も変化の兆しが見えてきた。

『今度、会おうか?』

『いつか会えるのかしら…』 



『今度、会おうか?』

『ね。いつか会いたいな…』



  男の言葉が 機を熟す時が来た。


作品名:癒して、紅 作家名:甜茶