癒して、紅
走る車の中。玲來は、トオルの走る道を眺めていた。
「アキちゃん、おとなしいね。さっきみたいに喋ってよ」
「ト、トオル…に合う話がわからなくって。あ、トオルってモテるわよね」
「え?いきなりそれ?」トオルは笑った。
「やっぱり可笑しいですよね、わたし」
「うん、面白い。もっと自信持てばいいのに。アキのいいところまで失くしちゃうよ」
玲來は、浮かぶ言葉を次々と消していった。こんなこと言ったら嫌われてしまう…そんな思い込みが声を抑え込んだ。
トオルは、路肩のスペースに車を寄せ停車した。
トオルは、斜め掛けのシートベルトを引くと玲來の方へ体を倒した。玲來の唇を覆うように重ねて息を吹き入れたのだ。
「ぅうん… うん」
玲來から離れて 笑いながら玲來の頭に手を置いた。
「詰まってたもの取れたかな? あ、キスはノーカン(ノーカウント)ね。さ、行こうか」
トオルは、再び車を走らせた。
カーオーディオからの曲の流れに 指でリズムを取りながらちらちらと玲來の顔を見た。
「アキちゃんのコメント楽しいよ。文字だと素直なのに どうした?」
「だんだん緊張してます。だってトオルは」
「僕は、優しいよ。キミにもみんなにも。美男子でしょ。八方美男」
「それは、みんなから人気があって、惚れっぽくって、気が多いってことでしょ?」
「そうだよ。否定しない。そのほうが楽しいでしょ」
さらりと言いきるトオルに 玲來は、戸惑った。
「どうして そんなふうにできるの? わたしは、顔色を見てしまう。どの立ち位置がいいか考えてばかり。誰かに話を振っても、相手の話題で消されてしまって聞き役になる。周りの人には軽く流してるように思われて その時だけの存在みたい…。 あ、こんな話するつもりじゃなかったのに……。 ごめんなさい」
「いっぱい喋ったと思ったら謝って。アキちゃんもっと気楽に過ごしなよ」
「ごめん…ね」
「あ、それから僕の訂正!誰にでもウエルカムじゃないよ。自分が楽しくなれないとつまらないし、ま、みんなを楽しさに巻き込むのは好きだけど」
「それいいね」
「アキも巻き込んであげるからね」
ハンドルから手を離し、玲來の手をぎゅっと握ると、またハンドルに戻した。