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からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話

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 すっかり見慣れているはずの店内をもう一度、事細かに観察している。
立ち止まっている此処から、出口まで、普通に歩けば10歩。
途中に、大きな観葉植物が置いてある。なので、5歩を歩いたところで要注意。
奥の座席に座ってしまうと、出口までの通路が煩雑すぎる。
だから、座ることさえ危険過ぎる。
カウンターから出る場合。急に曲がると、足元に障害物があるから
充分に気をつける。
などなど。脱出にそなえて、店内の配置確認に余念がない。

 (とりあえず、初日の今日は、無事に済みそうです・・・・)

 招待客の名簿の中に、それらしい名前は見当たらない。
10時を過ぎた頃。店内が一段落する。赤いチャイナ服を着た貞園が
小さな包みを持って表へ出る。
周囲を何度か見回す。怪しい人影は見当たらない。
100メートルほど離れている駐車場へ向かって、小走りに駆け出す。
うす暗い駐車場の隅に、見覚えのある白いベンツが停まっている。
エンジンがかかったままの車内に、若い男2人が待機している。

 「あんたら、バッカじゃないの!」
 助手席の窓ガラスをノックした貞園が、いきなり大きな声をだす。
『はい。差し入れのフライドチキン』良い匂いのするビニール袋を、
男へ差し出す。

 「これ見よがしに、白いベンツで待機していてどうすんの。
 誰が見ても、ここに不良がいますって、看板を上げているようなもんでしょ。
 岡本さんに注意されたでしょう。くれぐれも気をつけて見張れって、」

 「お、差し入れありがとう。
 なるほど。組長が『うまくやれ』と言っていたのは、そう言う意味か。
 確かにいわれてみればその通りだ。
 おい相棒。明日からはお前の車でやってこようぜ。
 白いベンツは目立ちすぎるが、黒いベンツなら、あまり目立たないだろう」


 「少し頼りないけど、いざという時には、それなりに役に聞いていたけど、
 それも、あまり当てにはならないようね。
 無理がありすぎるもの。
 あんたたち。真面目に仕事するつもりが、あるの?
 白か黒かの問題じゃなく、ようするに、目立つ車は駄目だと
 いうことでしょ!」


 「そこの綺麗なお姉さん。
 頭が良くて気が利けば、このご時世、不良なんかやっておりやせん。
 おれらは2人とも、ガキの頃からそろって出来が悪い。
 そのうえ少年院帰りだ。
 帰ってきた時から組長・・・いや今の社長に、世話になりっぱなしです。
 うちの組にいるのは、少年院帰りか、高校を中退したワルばかりです。
 岡本組といえば、札付きの不良連中の、更生施設などと
 悪口を言われていやす。
 覚せい剤と売春は御法度。みかじめ料はとらない。
 弱いものいじめは絶対にいたしやせん。
 そいつが岡本組の、3つのモットというやつでござんす」


 「なんでそれで、組の経営が成り立つのさ。
 一般市民を脅かして金をまきあげなきゃ、成り立たない商売でしょ、
 極道って」


 「お言葉ですが、綺麗なお姉さん。
 今の時代。原発という金喰い虫が、日本中にゴロゴロと転がっております。
 こいつ。維持するのにべらぼうな金がかかるんです。
 動こうが、動くまいが維持するだけで、億単位の金がうかかるんです。
 危険区域内での作業となれば、ひとりあたり5~6万円。
 いまどきの不良は、人材派遣だけで充分に食っていけやす。
 うちの親分。いや社長は、自慢じゃありませんが、東京6大学の
 出身ですから!」


 「なるほどね。実情はよくわかりました。
 ところで、今日の招待客の名簿の中に、それらしい名前は見当たりません。
 今日の襲撃は回避できたようです。
 明日も、暇を見つけて、また差し入れをもって来ます。じゃ、ね。
 頑張ってよ、あんたたち」