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からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話

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からっ風と、繭の郷の子守唄(118)
「駐車場に2人乗りの白いベンツが停り、緊張の一週間がはじまる」

 スナック『君来夜(いえらいしゃん)』の、20周年祝賀がはじまった。
不況が長引く中。客の姿が減ってきた繁華街の一角が、この一週間にかぎり、
すこし華やかになってきた。
気風の良さと面倒見のよさで、20年間、歓楽街に君臨してきた
『君来夜』のママ。
その唐突とも言える引退は、夜の前橋に大きな波紋を広げている。

 地元著名人たちの生花が、店の前に盛大に並ぶ。
店内にも馴染みの客からの花が、溢れている。
散り際を大事にする、上州人の気風のよさが表れている。
商売敵(がたき)の繁華街のママたちも、寸暇を惜しんで駆けつけてくる。
県庁でトップを占めている役人たち。地元経済界の主だったメンバーたち。
彼らもそれぞれに別れを惜しんで、顔を見せる。
一日に20人までと決めて、招待状を出したママの配慮が功を奏した。
指定された通りに招待客たちが、花束を抱えて店にやって来る。


 この日のために貞園は、真っ赤なチャイナドレスを準備した。
混雑をきわめる店内で、スイスイと泳ぎ回る貞園の赤いチャイナ服は、
招待客たちから、ことさら注目を集める。
『いくらでも(金なら)援助をするから、2代目君来夜のママにならないか』
と、何度も男たちから声をかけられる。
しかし。当の貞園は、まったくそれどころではない。