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からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話

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 「気にすることはねぇ。世間ではよくある、不良の抗争事件だ。
 誰が生きようが死のうが、結果がどうなろうが、姉ちゃんが
 気にする必要はねぇ。
 一般人には関係ないことだ。
 不良の幹部が死のうが、襲撃犯が打たれて死のうが、世間には
 なんの影響もねぇ。
 けが人を出さずに済むなんて、俺もそんな風に甘く考えちゃいない。
 姉ちゃんが手伝ってくれれば、作戦が成功するかもしれねぇ。
 だがそれだって、万にひとつか、千にひとつの確率だ。
 お前さんは、俺の娘とひとつ違いだ。
 怪我どころか、危険な目にさえ合せたくはねぇ。
 悪いことは言わねぇからやめてとけ。
 康平に、今回の件は無理だから降りた、といえばそれで終わりだ。
 姉ちゃんが降りても、俺たちは約束通り、出口で待ち構えている。
 中から襲撃犯が出てきたら、捕まえる努力はする。
 うまくいけば、康平との約束通り、国外へ逃亡させてやる。
 大きな声じゃ言えないが、それが康平への俺たちの仁義だ。
 そうしなければ、康平を痛い目にあわした意味もねぇ。
 群馬の不良はけっこう義理堅いんだぜ。あんがい、こう見えてもな」

 先程までキラキラ輝いていた貞園の黒い瞳が、陰りはじめた。
首までうなだれていく。
(おっ、少し様子が変わって来たな。脅かしすぎちまったようだ・・・・。
しかし、油断は禁物だ。
若い娘は調子に乗りすぎると、何をしでかすか見当がつかないからな。
なにはともあれ、若い娘に、あまり危険な思いはさせたくない・・・)
貞園の潤んだ瞳が、下から岡本を見上げてくる。


 (まずい!。こいつの目が、潤んできおったわい!。)


 貞園の黒い瞳から、ホロリと大粒の涙がおちる。
頬を伝い涙が一筋、流れ落ちていく。
ピンク色の唇も、かすかにだが小刻みに震えはじめてきた。
目頭にあふれてきた涙のかたまりが、ふたたび目の淵で溢れる。
流れ落ちたばかりの涙のあとを追い、ゆっくりとまた、頬を伝って落ちていく。

(まいったぜ。涙という女の武器で俺さまに反撃してきたぜ、こいつめ。
 外見は可愛い顔をしているくせに、中身は相当な小悪魔だ・・・・)


 小悪魔の必須アイテムのひとつが、乙女の流す涙だ。
女子の涙に、男はもろい。喧嘩をしている時ですら、次の攻撃の手を鈍らせる。
饒舌だった岡本が、とたんに言葉を呑んで沈黙してしまう。


 『なにがあっても私は、康平と美和子のために、この任務をやりとげます』
貞園が、任務という言葉に力を入れる。
目にいっぱいためた涙と、ささやくような健気な声。
その様子に岡本は、すでに乙女の戦術に完全に翻弄されている。


 (・・・・まったく、なんという呆れた小娘だ。
 涙で男を弄ぶことを知っているとは、なかなかにしたたかだ。
 このくらい性根があれば修羅場で、上手く立ち回ることができるかもしれん。
 しかしなぁ、しょせんは、俺の娘と同じ年頃の小娘だ。
 あまり危険な目には、合わせたくない。
 弱気にものを考えるようになったのは、やはり俺が歳をとった証拠かな。
 この際だ。この姉ちゃんに賭けてみるか。
 襲撃犯確保の切り札は、この姉ちゃんしか居ないからなぁ)


 しかし。岡本の心配は、まったくの杞憂だ。
岡本から死角になっているところで、ペロリと赤い舌を出している貞園がいる。
『してやったり』とほほ笑んでいる貞園に、岡本は一切気がついていない。