からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話
「その心配なら大丈夫だ。
幹部は、かならず数人の護衛を連れて店に現れる。
何人かは店の中へ連れて入る。
しかし。1人か2人を店の前で、警護の役に当たらせる。
入口で厳しく見張るから、顔を隠すやつは必ずチェックされる。
無事に通り抜けるためには、素顔のままというのが常識だ。
まして、関係者には顔を知られていない実行犯だ。
そのままの顔で店内に入ってくるだろう。
ばれないために、トイレで覆面するか、顔を隠す細工をするだろう。
素顔のまま凶行に走るのは、腕に自信のあるプロだけだ。
連中は、しくじらない自信があるからだ。
犯行に自信のないやつほど、顔を隠す傾向がある。それが犯罪者の心理だ。
実行犯が入店してから、一度だけ姿を隠す瞬間がある。
それが、凶行がこれから始まるという合図だ。
この時。必ずお前さんにやってもらいたい、最も大事な仕事がある」
「もっとも大事な、お仕事って何?」
「電気を消す。一瞬にして店内を真っ暗闇にすることだ」
「え?、電気を消す。なんでそんなことが、大切になるのですか?」
「お前さん。
発砲の現場で、犯人の顔を見たと言っていたよな。
その時、自分がどういう状態になっていたか、よく覚えているはずだ。
人は想定以上の衝撃に出くわすと、身動きが出来なくなる。
途方もない恐怖心に襲われて、何もできず、ただ狼狽えるばかりだ。
どうだ、記憶にあるだろう」
「たしかに身動きできなかったわ。
実行犯と目が合いそうになった瞬間なんか、酸素が消えそうなほど
息苦しくなったもの。
何もできないどころか、何も考えることができませんでした」
「それがパニック状態というやつだ。
しかし、パニック状態が起こる前に、突然電気が消されたらどうなる?
店内が真っ暗になったら、いったいどうなると思う?」
「突然のことで驚くわ。でも実行犯だって想定外で驚くはず。
そうか。そこに付け込む隙が生まれるわけね。
表から警備役が店内へ飛び込んでくる。
そうすると、逃走用の経路にも隙が出来る。
どさくさのうちに連れ出して、車の中へ実行犯を押し込めば、事は片付く。
なるほどねぇ。さすがおじさま、頭がいいわねぇ!感心しちゃいます!」
「喜ぶのはまだ早い。
今の想定は、たまたま上手くいったらこうなるだろうという、プランAだ。
当然、失敗するケースはある。、想定外のハプニングも発生する。
プランBとプランCも、ちゃんと用意してある」
「お~。ますますもって、デンジャラス!。
お話がいよいよ佳境に入ってきましたね。
わたし久々に、全身がゾクゾクワクワクしています・・・・」
「こらこら、話はまだこれからだ。
大丈夫か。ほんとうに、お前さんという子は・・・・」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話 作家名:落合順平