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からっ風と、繭の郷の子守唄 116話~120話

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 「誰も動くな。動くとママと総長が、一緒にあの世へいくことになる!」

 ママを盾にした男が、銃口を老人に向かって突き付ける。
護衛の3人が、いっせいに懐から拳銃を取り出す。
そのうちのひとりが、顔色一つ変えず、ずいと老人の前へ一歩踏み出す。
そのまま老人の壁になる。
その手にもやはり、同じように鈍い光を放つ拳銃がすでに握られている。


 「よく来た。だが、お前さんがやって来る事は、すでに察知済みだ。
 お前さんは『飛んで火に入る夏の虫』だ。
 くだらないことは今すぐやめろ。関係のないママさんを
 巻き添えにするんじゃねぇ
 手は離せ。生命まで取るとは言わないから、あきらめろ。
 どっちにしろ3対1の銃撃戦だ。お前さんに、万にひとつの勝ち目もねぇ」


 老人の前に立ちふさがった男が、静かな声で男を諭す。
静かな口調とはうらはらに、男の構えた銃口は、男の顔をピタリと狙っている。
左右で身構えている2人にも、同じことがいえる。
中腰に身構えたまま、ママもろとも男を打ち抜くつもりで、拳銃を構えている。
持久戦のような、膠着状態がはじまった。
スイッチを探し当てている貞園の指先も、『どうしたものか』と
タイミングを失っている。

 店員のほうが、先にしびれを切らす。
『やかましい・・・・』吐き出すようにつぶやいたあと、ママを床へ突き放す。
両腕で拳銃を構え直す。『死にやがれ!』口から怒号が飛びだす。
次の瞬間。パンという乾いた銃声が、店内に響きわたる。
ほぼ同時に、護衛の男たちもいっせいに拳銃の引き金をひく。
パン、パン、パンと短い銃撃の音が、女性たちの悲鳴とともに店の外まで
響きわたる。


 『しまった!遅れた。』貞園の指が、あわてて照明のスイッチを切る。
店内が、一瞬にして闇の底へ変る。
ふたたび女性たちの甲高い悲鳴が嵐のように湧き上がる。
2発目、3発目の銃声が、さらに店内に響きわたる。
うっとうめく男の声が、真っ暗闇の中から貞園の耳にも聞こえてきた。


 テーブルから、グラスと食器が床へ飛び散っていく。
割れて砕ける音が、真っ暗闇の店内に響く。
行き場を失った足音が、激しく床を踏み鳴らす。
誰かが床へ倒れ込んだような音が、聞こえてきた。誰が倒れたかはわからない。
テーブルが傾いたようだ。あとを追うように、更に大量のグラスと食器が
激しい音をたてて床にばらまかれていく。


 「おい。大丈夫か、総長は」


 「停電だ!。流れ弾に気をつけろ。狙撃犯はどうした!」


 「頭を上げるな。床へ伏せろ。電気はどうした、早く明かりをつけろ」


 「誰も動くな。撃つんじゃない、同士打ちになる」


 女性客たちの黄色い悲鳴が、ドアの外に立っている見張り役を呼び込む。
いきなり開け放たれたドアから、外の光がわずかに差し込む。
しかし。飛び込んで来た見張り役の目に、店内の様子はまったく見えない。
外からの淡い光だけでは、闇の中は見えない。
真っ暗闇の状態が続く中。貞園が壁を伝いながら次の行動へ移っていく。